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森吉山の翌日は、秋田駒に登るか、秘境といわれる小又峡の滝見にするか、担当のAさんも迷われたところだ。登山とセットした滝は、自然そのものがむき出し状態で眺められる。滅多にみることのできない、滝を選択したのは、やはり正解であったと言うべきだろう。森吉ダムを建設してせき止めた渓流の水を蓄えたのが太平湖。いわゆる人造湖であるが、ここまで行くには、昨夜泊った阿仁前田の宿から県道309号線を、車で40分ほど走る。カーブの続く山道で、携帯の電波も届かない。
遊覧船の発着所に太平湖グリーンハウスがある。ここで乗船券を買って太平湖桟橋へ歩く。湖を見ながら階段状の道で、勾配も結構なものだ。周囲には手つかずの森が広がる。秋が深まると、シメジなどのキノコも出るという。
朝日に光る湖面はびっくりように美しい。昨夜降った雨も上がり、空には青空が広がっている。我がチームは、よほど天気運に恵まれている。朝一番の船に乗るが、乗客は我々5名の貸し切りである。ここから湖上の見どころを巡りながら約35分の船旅である。乗船すると、湖面に鯉や小魚が群れてくる。乗客が暮れる餌を待っているのか、大きな口を開けて集まってくる。
船の案内が湖の特徴を説明してくれる。この湖には大小13の渓流が流れ込んでいる。それを一か所のダムサイトでせき止めてできた効率のよい湖とのこと。貯めた水は、水力発電に利用される。面積195ha、水深53m、サクラマス、イワナ、鯉、ワカサギが生息し、釣り客でも賑わうらしい。
岸には柱状節理が発達し、手つかずの自然がのこっている。案内の人が指す方向に、穴がふたつあいているのが見える。熊の冬眠用の穴と説明された。周囲5㌔四方には、住む人もいない。しかし、この人造湖の湖底は平地で、50戸ほどの集落があったそうだ。藩の境にあたる場所で、藩境の警備にあたったとのことである。この山深い集落の生活はどうであっただろうか。マタギの人たちの生き方とあわせて興味深い。
小又峡桟橋で船を降りると、川沿いに1.8㌔の遊歩道が整備されている。遊歩道とはいえ、川沿いの道である。所々に切れ落ちた崖もある。ここの岩は、一枚状になっていて、渓谷は深い。柔らかい部分だけが、水流に侵食されて、滝や横穴、深渕など変化に富んだ景観を見せてくれる。水は冷たく、あくまでも澄みきっている。マップに記されているだけで、横滝、曲滝、三角滝、穴滝、化ノ滝、三階滝などの滝が次々に出てくる。最後は三階滝だが、高さ20mの迫力満点の滝で締めくくられる。冒頭の動画が、その三階滝である。
遊歩道の終点近く、両側に迫る谷に岩に陽がさえぎらてうす暗いところが続く。化ノ淵、化ノ滝、化ノ滝、化ノセキという名前が続いて出てくる。うす暗く、妖怪や化け物が出てきても不思議でないような場所だ。このようなところを一人で歩くと少し寂しいような感じを受ける。かって、このあたりに、山の獣や魚を狩りに来た人々が名付けたものと思われる。深く切れ込んだ堰は、ここだけが脆い岩盤であったのであろう。
秋田の秘境というにふさわしい。これだけを見に来るのは、なかなかできない。今回、森吉山を登って、ここを巡る幸運を得た。しかも、天候の変わりやすい季節に、2日間の好天に恵まれた。機会があれば、これかの紅葉、春の新緑のいい時期に訪れることができれば、まだまだ秋田の秘境の魅力に触れることができる。