一度読んだ本は捨てがたい。そのため、本棚は増殖する。本棚には自分の読書生活の歴史のようなものが残っている。その時代によって興味を持つ分野も変遷している。奥の方に百目鬼恭三郎の『現代の作家101人』という本が出れ来た。中身を見るとこの101人になかに、興味を持って読んだ現代作家が数人含まれている。井上ひさし、井上光晴、北杜夫、島尾敏夫、瀬戸内晴美、辻那生、丸屋才一、和田芳恵など10本の指にも満たない作家だ。
最近、本屋めぐりの回数が減ってしまった。その分だけ、自分の本棚で本を探して再読することが多くなった。再読で読書の面白さを再発見することが多い。一度読んだ本の印象は、その時の興味のある部分だけが辛うじて頭の片隅に残っているぐらいで、ほとんどが初めて読むようなものである。ある人のブログにゲーテの言葉が出ていたので、文学全集のゲーテを出して『若きウェルテルの悩み』を再読した。貴重な体験であった。青春の恋愛というものがかくも激しく、死と隣り合わせていたことが、この小説の文章から脈々と伝わってくる。人はこのように人生を送るものなのか。
和田芳恵の『接ぎ木の台』も懐かしい。老境に入った男と年若い女の愛欲の話であるが、和田の人生観が70歳を過ぎて変わった。和田は「醜く見えることの、実は複雑な美しさ」に、晩年になって気づいたことを、「自伝抄」のなかで吐露している。本棚にある古い本のなかに、人生の実像が隠されている気がする。