猛暑が続く。せめてブログの話題は秋にしたい。こうして書いている間にも顔から汗がしたたる。人が暑いと話すだけで、いくら暑いと云ったからとて涼しくなるわけもないのに、とつい批判がましい気持ちが起きる。
万葉集に
萩の花尾花葛花撫子の花をみなえしまた藤袴朝顔の花 山上憶良
と秋の七草の花をならべて詠んだ歌がある。一見、花の名だけが出る、和歌とはいいがたいものに見える。しかし、子供たちに教えた数え歌と指摘するのは、「万葉集釈注」を著した伊藤博氏である。
この歌が詠まれたのは天平2年、山上憶良が筑紫国守として赴任したときであった。「瓜食めば子ども思ほゆ 栗食めばまして偲はゆ」と詠った憶良である。大好きな子供たちを集めて花の名を数え歌にした。伊藤博氏のこの歌の訳は
一つ萩の花、二つ尾花、三つに葛の花、四つになでしこのはな、うんさよう、五つにおみなえし、ほらそれにまだあるぞ、六つ藤袴、七つ朝顔の花。うんさよう、これが秋の七種の花なのさ。
大勢の子どもたちを前に、憶良は指を一本ずつ折って、大きな声で教えたと解説している。
尾花、つまりススキの穂は開き、葛の花は終わりかけている。だが、萩の花の開花はもう少し待たねばならない。なでしこは日本中の誰もが知る花になった。サッカーの女子チームの名に冠された花だ。
おみなえしは気にかけずに見ているせいか、野原でこれがおみなえしだという自信はない。黄色の花をつける大柄な草だ。藤袴は蕾が紫で花はピンク、私の住んでいるあたりではあまり見かけない。
ところでススキが風に揺れるさまは、袖を振って人を招く姿を連想させ、王朝人の恋の小道具に使われた。「大和物語」に以前通っていた女が尾花に文を結んで歌を送った話がある。その文を見て男は
秋風になびく尾花は昔見したもとに似てぞ恋しかりける
と尾花につけた文に色よい返事がきた。女はさらに返して
たもとともしのばざらまし秋風になびく尾花のおどろかさずは
私が便りをしなかったならば、私のことなど思いだしもしなかったでしょうに、と皮肉をこめている。結果二人のよりが戻ったかどうか、物語は触れていない。
答えは古今集の在原棟梁の歌にある。
秋の野の草のたもとか花すすきほにいでてまねく袖と見ゆらん
文を受け取った男が在原棟梁であることが、この物語の類似からみて推察できる。男はふたたび女の機智をよろこび、女のもとに戻った。