
村上春樹の新しい小説、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』には、名前のなかに色を持つ4人の男女が登場する。赤松慶、青海悦夫、白根柚木、黒埜恵理である。多崎つくるは、高校時代この4人と、ボランティア活動を通して欠け替えのない親友となる。この4人は高校を卒業しても、名古屋の大学に進み、ひとりつくるだけが東京の大学に進む。つくるは鉄道に興味を覚え、駅の設計をな学ぶため、専門の工科大学へ行った。そして事件が起きる。欠けがえのない親友から絶交を言い渡される。
主人公の「つくる」という名に、作者の意図があるように思える。「つくる」という名に色はないが、随所に「駅を作るつくる君」というフレーズが幾度となく出てくる。物づくり、にも通底する名だ。事件を通り抜けて、つくるは鉄道会社の駅舎を設計管理する部署に就職する。行き場所が見えなくなった時、つくるは東京駅の山手線のホームのベンチに腰をかけ、電車の流れに人が吸いこまれていく様子をじっと眺める。
色を持つ4人たちははどのような性格で、その後どのような人生を歩むことになるのであろうか。一人ひとりについて見てみると、
アカこと赤松慶は負けず嫌い、授業では優秀な成績をおさめた。大学は名古屋大学経済学部、ここを優秀な成績で卒業し、大手銀行へ就職。だが、3年で退職、サラ金に転職。ここも2年半で退職、自ら企業戦士を養成するする企業研修センターを設立。現在マスコミを賑わせるほどの存在感があり、成功したかに見える。
アオこと青海悦夫。ラクビーのフォーワード、キャプテンも務めた。がっしりした体格、大食で明るい性格。人の話をよく聞き、場をまとめるのが上手で人から好感を持たれた。名古屋の私立大を出て、トヨタのディラーに就職、トップセールスマンとして活躍。抜擢されてレクサスブランドの立ち上げに参加、ここでもトップセールスとして期待されている。
クロこと黒埜恵理。愛嬌があって生き生きとした表情を持っている。自立心が強く、タフな性格、早口で頭も回転も早い。熱心な読書家、ユーモアのセンスのある皮肉を口にした。名古屋の私大で英文科に入った。シロとの関係で疲れきったときふと見た陶芸に興味を持ち、芸術大学に入り直し、陶器の勉強をする。そこで知り合ったフィンランド人のエドヴァルトと恋に落ち、夫の故国で陶器をつくり、それを売って暮らしを立てている。
シロこと白根柚木。日本人形のような端正な顔立ちの美人。ピアノを上手に弾き、アフタースクールで子どもたちにピアノを教えた。普段は無口で大人しいが、生きものが好きで、獣医になるのが夢だと語った。父は産婦人科の医師。大学は周囲の説得で獣医学校を諦め、音楽大学に進んだ。だが大学時代に事件が起きる。レイプされて妊娠、子を産む決心だが死産という結末を迎える。シロはレイプしたのは、つくるだと主張し、その現場の様子を赤裸々に語った。しばらく自宅でピアノ教師をしたが、浜松に出た一人暮しを始め、そのアパートで何ものかによって絞殺された。(続く)