秋晴れが続く。朝方の気温が低いせいか、ムラサキシキブの実も一段と深い紫になった。親水公園の水のせせらぎが心地よい。木の枝にとまった小鳥の鳴き声も仲間にやさしい声で語りかけている。ヒガンバナが、次々に花茎を伸ばし群落が大きく広がってきた。9月も今日で終わり、季節は晩秋へと向かう。高い山では、いつ雪が降っても不思議ではない。
みかんやや色づいているみさきかな 草夫
福田清人は児童文学者であり、大学で教鞭をとった。福田の『秋の目玉』は、自らの少年時代に重ねながら、南国の中学生の教室での出来事、友だちや先生の印象を書いた児童文学である。「小さな詩」は授業で習った俳句が題材になっている。友だちは「赤鬼があせながしながら車ひく」という句を作った。先生が、この桃太郎みたいな句は、鬼が島のことか、と質問した。友だちは、「いいえ、うちの下男が赤鬼のように、汗をかいて車を見たままを句にしました。先生に見たもの、心に感じたものをすなおに作れと教わりました」
この時代、正岡子規や斎藤茂吉の写生が、中学の教室にも伝わっていたことが知れる。主人公の草夫授業で提出した句は、
城あとの秋風のなかをさまよえり 草夫
であったが、今日一番いいと先生からほめられた。ひとり散歩していると秋風が吹いてきた、というわけだがすなおでいい、と感想も言われた。草夫は見たものを写生するように手帳に並べていた。ちかくにみかん畑があり、みかんが色づきはじめていた。秋の色が、中学生にも詩の心を教えてくれる。