大寒も終わりに近づいているが、気温が低く、日がさしたり、雪が舞うという気候が続いている。クンシランの花芽は、みるみるうちに伸びて、先端が色づきはじめた。正月のカルタ遊びを思い出し、取り札の歌を見るのも懐かしい。
96番 入道前太政大臣
花さそふあらしの庭の雪ならで
ふり行くものは我が身なりけり
散る桜の花ふぶきを雪に見立て、その落果におのが老いの姿をたとえた歌である。入道前太政大臣とは藤原公経で、頼朝の妹婿一条能保の娘を妻としたので、権勢ならびなく太政大臣に押された。衣笠山の麓に別邸を建て西園寺とした。後の金閣寺の前身となる寺である。この庭に咲く桜の花に風が吹きつけ、あたかも吹雪の雪と見違うほどであった。
衣笠山の麓のことであるため、田畑が多く田舎びた地であったが、造営をくりかえして艶なる庭園とした。山のたたずまい木深く、池にはゆたかな水を湛え、峰より落ちる瀧のひびきが、来る人の心を打つ造りになっていた。
公経の姉は、定家の妻で、一家は西園寺家の深い庇護のもとにあった。この百人一首のほかに、『新勅撰集』には、定家は公経の歌を30首も選んでいる。日ごろの恩義を感じたいたことはもちろんだが、歌詠みとしても定家は公経を高く評価していた。