常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

鯨伝説

2021年04月14日 | 神社
テレビとウェブの融合と言われて久しい。最近は、地上波テレビのパソコンへの同時配信が行われている。先週放映された「ダーウィンが来た」をもう一度見たくてNHKプラスを登録してみた。これが意外に便利であることが分かった。見たい番組を番組案内で見て、その時間を待って見るのがテレビを見る慣例である。だがその時間に何かの用事ができると、録画のような方法しかなかった。NHKプラスで見逃しを見れば、容易にその番組を見れるし、地域の放送はこの場所で全国のものが見られる。

先週の「ダーウィン」はオーストラリア沖の、小さな海域に、シャチ、鯨、ダイオウイカなどの巨大な生きものが夏の期間に集結する。深海への壁に秘密があった。アミなどの小生物が湧くように発生し、それを目当てにイカや多種類の魚がやってきて、豊富な魚群を求めて鯨やシャチが現れる。番組のライトをと餌をつけたカメラにダイオウイカが触腕を伸ばすシーンが撮られた。巨大な鯨がシャチに攻撃されて、食べられるのもこの番組で知った。

鯨といえば気仙沼の唐桑町に伝わる伝説がある。石巻の商人が仙台侯の米を運ぶため船に米俵を積み、16人の乗組員で石巻港を出帆した。翌日、船は時ならぬ春の暴風に襲われて、漂流し、1週間後には千葉の九十九里沖に来た。普通なら、暴風は収まるはずであったが、さらに吹き募りいよいよ沈没の危機が迫ってきた。その時、風の合間に海のなかから呼ぶ声が聞こえてきた。船乗りが恐る恐る船室の窓を開けてみると、船のまわりに白い大きな鯨が取り巻いて泳いでいる。やがて、鯨の長のような厳かな声が響いた。いわく、「船員は小舟に乗り移れ」。

船員たちはあの声、桑島の御崎明神の声だと思った。急いで小舟をだして皆が小舟に乗り移ると、鯨の群れが舟の周りを固め、力を合わせて北を目指して押しやった。小舟の後では、米を積んだ船はみるみる海中に没していった。一同の乗った船は神社に寄付され、その後ろに鯨塚が作られた。

鯨をエビスと呼ぶ地方がある。エビス様は、釣り竿と鯛を持って微笑んでいるが、漁村に漁師たちの信仰があつい。エビスは夷、胡、戎と書き、異国人や外から訪れる神である。鯨やシャチが、カツオやイワシ、ニシンなどの回遊魚を追い、逃げ惑う魚たちが漁師たちが網を張って待つ漁場へ追い込まれた。そのために漁村にもたらせる益は莫大であった。鯨がエビス様と呼ばれる由縁である。

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千歳山稲荷神社

2015年10月10日 | 神社


千歳山に登ると、ここに登る人の10人に3人は、登りと下りに中腹にある稲荷神社に礼拝する。信仰心のない私のようなものでも、神前に礼拝する姿に清々しい雰囲気を感じ取っている。奉納された赤い鳥居は、年代を経て錆びたものから新しいものまで並び立って、神社の参道を彩っている。祭神は豊受大神、トヨウケビメである。古事記には、イザナミ尊の尿から生まれたワクムスビの子で、「ウケ」とは食べ物のことで、食物、穀物を司る女神である。

雄略天皇の御代、天皇の夢に天照大神が現れ、「自分ひとりの力では食物のことを安らかにできないので丹波のトヨウケ大神を呼びなさい」との神託があった。雄略天皇は伊勢の度会に、トヨウケ大神を遷宮させと伝えられている。このトヨウケビメと田の神である稲荷神とが習合して、稲荷神社が全国各地で祭られるようになった。

千歳山では、山形に入部した斯波兼頼が、山形城を築城する際に、稲荷神に使者を千歳山に登らせて城の方位を見定めようとしたが、市内には霧が立ち込めて、見ることができなかった。このとき、山中で稲荷神に出会い使命達成を祈願したところ、霧はたちまちはれ上がり視界が得られ方位の確認ができた。このことを兼頼公に報告したところ、千歳山の山中で山形城の正面の地に稲荷神社が祭られることになったという由来を記した看板が登山口に立っている。ところで稲荷神の神使はキツネである。キツネの尾が丸まっていることから、如意宝珠に擬せられ、願いを叶えられる聖獣として、広く農民の信仰を集めた。

桜田で酒店を経営していた佐藤小太郎さんの自伝に、小学生のころ友達と連れ立って千歳山に登り、尿意を覚えて稲荷神社の狛犬の前で放尿したところ、神罰が祟って発熱して布団から起きられなくなったことが書かれている。村の占いさんに見てもらったところ、「罰のあたるようなことしなかったか」と聞かれ、放尿を告白した。代理の人に神社に謝ってもらったところ、熱はうそのように消えてしまった、と書かれている。つい数十年年前まで、稲荷信仰は人々の生活のなかに深く根を下ろしていた。深まっていく秋のなかで、ツツジが季節外れの花を咲かせていた。

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