6月も30日ともなれば、今年も半分が過ぎたことになる。京都の上賀茂神社では夏越の祓が行われる。年末の年越しの祓の夏版というのか、暑い夏を無病息災で乗り切る神事である。神社のなかを流れる小川に名前を書いた紙の人形(ひとがた)を流し、穢れを祓う行事だ。
風そよぐならの小川の夕暮は 御祓(みそぎ)ぞ夏のしるしなりけり 藤原 家隆
夏越を祓を詠んだ藤原家隆の歌である。ならの小川は川岸に繁る楢の木と、上賀茂神社を流れるならの小川と懸けている。神社のある片岡山の麓を流れるせせらぎは、本殿の方から流れて来る御物忌川は橋殿のあたりで西から流れて来る御手洗川が合流する。ここで神官が祝詞をあげて祓の神事を行ったが、その内容は時代によって変容している。家隆がこの夏の夕暮に見た禊の神事がどのようなものであったか、浅学にして詳らかにしない。
藤原家隆は後鳥羽院の和歌所に、慈円、定家らととも寄人となり鎌倉時代の歌の世界で、藤原定家と並び称された歌人である。詠んだ歌は6万首とも言われ、今に残されているものは、その十分の一にも及ばない。その歌風は後鳥羽院や藤原俊成、定家からも認められ、自然を観照した優れたものが多い。ちなみにこの歌は定家の選歌になる小倉百人一首にも入り、多くの人に親しまれている。日本詩吟学院では27年度の優秀吟コンクールの課題吟の吟題にこの歌を選らんだ。私はこの吟題を選び、一年間練習していくことにした。