最上川が山形県のなかだけを貫流する川とすれば、他県に跨らずすっぽりと県内に屹立する山は月山(1984m)である。その裾野に住む人々は、渓谷を流れ下る水で田畑を潤し、様々な山の恵みによって暮らしを賄ってきた。同時に四季によって変わる山の表情によって、癒され、励まされ、暮らしの指針をも得ていた。山に登る者には、季節ごとにその多彩な素晴らしさを満喫させてくれる。日本海を吹き渡る風は、多量の水蒸気を含む雲となり、冬はこの山に10mを越える積雪をもたらす。志津温泉から上は除雪も行われず、スキーの始まる4月末まで雪に閉ざされる。この厳冬に下から登山を試みた人が、力尽きて雪に埋もれて死んだのは10年ほど前のことであったろうか。
登山を始めてから月山に登ったのは10度ほどであろうか。雪の消えていく山肌を彩る高山の花の美しさが、最初の見つけたこの山の魅力である。7月、姥ケ山のお花畑には数え切れないほどの種類の花々が一斉に咲く。ある年、5月の連休にリフトに乗って残雪の月山に登った。重畳と連なる朝日連峰の山々の雪景色は、忘れることのできない景観であった。そして、間もなく初雪が来る紅葉の季節。全山を染め上げる草紅葉と灌木の紅葉は、今回見つけた月山のもう一つの魅力である。
「9月下旬には山頂付近で紅葉が始まり、10月上旬には中腹のブナ林の紅葉期を迎える。秋の森を歩くと甘酸っぱい臭いが漂ってくることがあるが、これは葉がこうようするときに発生する臭いである。(中略)秋の移り変わりは早急である。葉は一雨毎に色を増し、鮮やかな彩りが一週間ほど続いたのち、徐々にいろあせてゆく。」
平日であるが、紅葉の最盛期とあって入山している人の姿が多い。ここでも若い人たちの姿が目立つ。絨毯を敷きつめたような草紅葉に、「家に床に敷きたい」と言う女性がいた。「背負って持っていけば」というと、「重すぎるわね」と返ってきた。こんな他愛のない話が弾む錦秋の景観である。目を遠くにやれば、先月縦走した朝日の山々がガスのなかにシルエットを描いている。あれが以東、尖ったのが障子ヶ岳、その向うに寒江山、中岳。縦走の楽しさの記憶を引き出してくれる。牛首から石の道を1時間半、ゆっくりと歩いて頂上に着く。頂上の手前で風が吹いて汗を蒸発してくれる。「あれSさん」と思わず声をかける。会社づつめで、版下の仕事をしてくれていたSさん夫妻だ。偶然に十数年ぶりの再会である。しばし、昔の知人に話が及ぶ。再会のため電話番号を交換して別れる。
帰路は牛首から姥ケ山を巻くした道を行く。トレラン姿の若者が3名、半袖の軽装でどんどんと早く下っていく。本日の参加者9名。内男性4名。
岩道のこごしき道をくだらむと
遠山河も見ることもなし 斎藤茂吉