明日あたり処暑を迎える。台風とともに暑かった夏が終わろうとしている。予報では残暑が厳しいということだが朝夕の風に秋を感じる。草むらの虫の音が主役の座を奪おうとしている。ボードレールの「秋の詩」。
われらまもなく冷たき闇に沈むらん。
いざさらば、束の間なりしわれらが強き夏の光よ!
われすでに聞く、中庭の甃石に
悲しき響を立てて枯枝の落つるを。
村上春樹の短編『蛍』を拾い読みした。友だちがくれたコーヒー瓶に入った蛍を逃がす場面が短編の締めくくりになっている。夏の終わりに近い季節には蛍の寿命は尽きるのか、どうか、それさえはっきりしない。瓶の中を登ったり落ちたりするが尾の先の光はその寿命を示すかのようにか細い。
「蛍は何かを思いついたようにふと羽を広げ、その次の瞬間には手すりを越えて淡い闇の中に浮かんでいた。そしてまるで失われた時間を取り戻そうとするかのように、給水塔のわきで素早く弧を描いた。」
そして蛍は闇のなか飛び去って行った。その後、蛍がどうなったか、主人公は知るべくもない。それは、これから巣立っていく彼自身の人生の軌跡のようにも思える。向日葵の花が夏の光を浴びてうつむき加減だ。風の向こうにおびただしい数のトンボたちが飛び回っている。
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