介護施設に入所している先輩に会いに行って来た。入口で検温をして、名前を記入する。私が紙袋を持っていたので、職員の女性は「差し入れはお断りすようにと、ご家族から言われておりますので」と言う。「ええ、これは皆さんで食べてください」と差し出すと素直に受け取ってくれた。
「バナナが食べたいと言うので、差し入れていたのですが、その為に食事が出来ないのでしょうか?」と尋ねると、「ご自分で整理も出来ない状況なので」と答えてくれた。差し入れた物が、冷蔵庫の中で痛んでしまっていたのかも知れない。
ホールに車イスでいた先輩は、職員と話している私に気付かない様子だった。私がそばに行くと驚いて、「誰が電話したのか」と訊いてきたが、すぐに忘れて自分のことを話し出した。お漏らしをしてしまい、みんなに迷惑をかけていると言う。
介護施設が「こんなに自由が無いとは知らなかった」と嘆き、「私は自由になりたいだけ」と強調する。好きなカラオケも「声が出なくて歌えない」と笑う。発声は聴きづらいし、耳が聞こえないので、いくら耳の傍で話しても届いてはいないようだ。
「あと、5年か10年、家に帰れるか分からないが、みんなに感謝したい」と言う。余命はそんなに無いよと言いたかったが、「だったら、家族みんなに会いたいと伝えたらいい」と言うと、ウンウンと嬉しそうに目を細めた。
「ここまで生きてこられたのは家族のおかげ、みんなに『ありがとう』を言うといいよ」と私が念を押すと、深く頷いた。心の底からそう思っている様子だった。なかなか親父としては面と向かうと言えないかも知れないが、でも何も言わなくてもきっと分かってくれるだろう。
先輩は私に、「家族が集まるようにして」と言うが、それは家族の誰かが招集するべきだ。年老いた親父を、家族のそれぞれが心配していても、話し合わなければ意思は伝わらない。きっと次男のヨメさんが役割を果たしてくれるだろう。
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