東日本大震災のどさくさで、書き忘れていたことがいくつかあります。その一つは、震災前の3月8日に逝去された谷沢永一氏のことです。享年81歳。関西大学の名誉教授で、国文学者として著名で、博覧強記ぶりでも知られ、ものした書籍は数知れず、ご本人は書誌学者という名称を好んで使っておられたそうです。私はもとよりお会いしたことがなく、最初にお名前を拝見したのは、雑誌か何かで知った、松下幸之助氏が創設した政策研究提言機構「京都座会」だったと記憶しますが、以後、書籍を通して敬愛申し上げて来ました。渡部昇一氏との共著作が多く、最近も、「Will」5月号の中で、創刊まもない頃から最近まで巻頭の匿名コラム「天地無用」を書かれていたのは実は谷沢永一氏だったと、渡部氏が披露するとともに、追悼文を寄せられ、切々と故人を忍ぶ言葉が書き綴られているのを読んで、あらためて惜しい人を亡くしたものだと認識をあらたにしました。そのエッセイの中から、谷沢氏の「凄さ」について触れたところを、いくつか引用します。
「大修館書店の編集者・藤田洸一郎氏によるとこういう人だったという。『ものすごい蔵書家で、現代国文学の世界では鬼のように恐れられている人です。学会を見に行ったことがありますが、谷沢先生が入場すると一瞬、会場が静まり返るんです』 というのも、谷沢先生の歯に衣着せぬ発言で、学会のボスのような学者がその学会に二度と出られなくなった、という噂すらあったほど、谷沢先生は何でも遠慮なくものを言う人だ、とのことでした。」
「本好きの私が谷沢先生から教わった最も大きなことは、『古本屋の本は値切るな』ということでした。自分の鑑識力をかけて値段をつけているものを値切るものではない、という心得を貰いました。」
「谷沢先生は国会図書館にもないような本をたくさんお持ちで、特に雑書を集めるのがお好きだった。雑書を読むとたいそう偉そうな書籍よりもずっと実情が書かれている、という見識をお持ちでした。」
「関西大学内でも非常に力があったそうですが、その根源は何かというと、地位に野心がないこと、学校の中で偉くなる気がないので、却って力があったようです。」
そして最後に渡部氏は谷沢氏のことを「本当に余人を以て替え難い人で、惜しい人を亡くしました。」と締め括っています。私が敬愛する高坂正堯先生が亡くなられた時にも、「朝まで・・・」で一緒だった田原総一郎氏が「余人を以て替え難い人」と語っていたのを思い出しました。
渡部氏もこの原稿で述べておられることですが、「天皇制」という言葉をサヨク用語だと私が断じているのは、実は谷沢氏からの請け売りです(因みに谷沢氏は「天皇制」に代わる呼び名として「皇室伝統」を提唱されました)。また、このブログの昨年1月15日の稿で「聖徳太子はいなかった」という本について所感を述べましたが、谷沢氏がものしたもので、私が読んだ氏の最後の本になりました。切れ味鋭い書評だけでなく、時事問題も縦横無尽に切って捨てて痛快でしたが、もう目にすることが出来ないと思うと寂しい限りです。心よりご冥福をお祈り致します。
「大修館書店の編集者・藤田洸一郎氏によるとこういう人だったという。『ものすごい蔵書家で、現代国文学の世界では鬼のように恐れられている人です。学会を見に行ったことがありますが、谷沢先生が入場すると一瞬、会場が静まり返るんです』 というのも、谷沢先生の歯に衣着せぬ発言で、学会のボスのような学者がその学会に二度と出られなくなった、という噂すらあったほど、谷沢先生は何でも遠慮なくものを言う人だ、とのことでした。」
「本好きの私が谷沢先生から教わった最も大きなことは、『古本屋の本は値切るな』ということでした。自分の鑑識力をかけて値段をつけているものを値切るものではない、という心得を貰いました。」
「谷沢先生は国会図書館にもないような本をたくさんお持ちで、特に雑書を集めるのがお好きだった。雑書を読むとたいそう偉そうな書籍よりもずっと実情が書かれている、という見識をお持ちでした。」
「関西大学内でも非常に力があったそうですが、その根源は何かというと、地位に野心がないこと、学校の中で偉くなる気がないので、却って力があったようです。」
そして最後に渡部氏は谷沢氏のことを「本当に余人を以て替え難い人で、惜しい人を亡くしました。」と締め括っています。私が敬愛する高坂正堯先生が亡くなられた時にも、「朝まで・・・」で一緒だった田原総一郎氏が「余人を以て替え難い人」と語っていたのを思い出しました。
渡部氏もこの原稿で述べておられることですが、「天皇制」という言葉をサヨク用語だと私が断じているのは、実は谷沢氏からの請け売りです(因みに谷沢氏は「天皇制」に代わる呼び名として「皇室伝統」を提唱されました)。また、このブログの昨年1月15日の稿で「聖徳太子はいなかった」という本について所感を述べましたが、谷沢氏がものしたもので、私が読んだ氏の最後の本になりました。切れ味鋭い書評だけでなく、時事問題も縦横無尽に切って捨てて痛快でしたが、もう目にすることが出来ないと思うと寂しい限りです。心よりご冥福をお祈り致します。