風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

欧米の立ち位置・続

2014-06-05 01:57:49 | 時事放談
 前回に続いて、今回はアメリカ編です。
 シリア問題では、化学兵器使用をレッドラインと言いながら、いざ使用されても武力行使を決断できず何もできなかったオバマ大統領の弱腰な姿勢は、ウクライナ問題でも同様で、早々に「武力不行使」を宣言して、ロシアから足元を見られるなど、オバマ大統領の指導力に疑問符が付されています。曰く、無力で、無気力であると。進歩的なNY Timesは、そうは言っても、この難しい状況で、なかなか頑張っているではないかと、珍しく肯定的に論じる記事を載せましたが、そこまで同情されると却って惨めなくらいでした。
 オバマ大統領個人のキャラクターあるいは力量への評価はともかく、ブッシュ前大統領の単独行動主義という負の遺産を引き継ぎ、10年間で5000億ドルもの軍事予算を削減しなければならないほど財政事情が悪化し、イラクからもアフガニスタンからも引き揚げて、「もはや世界の警察官ではない」と宣言せざるを得なかったのは、オバマ大統領のせいとは言えませんが、甚だ評判がよろしくありません。それを聞いてほくそ笑んだのがロシアであり中国でした。このままアメリカが、かつての孤立主義に戻っていいものではない。批判的な目を意識するオバマ大統領は、先日、ウェストポイントでの陸軍士官学校の卒業式で演説し、あらためて政権として外交や制裁、国際法を重視し、軍事行動に優先させることを明確に打ち出しつつ、「米国は常に世界の指導的立場にいなければならない」「孤立主義は選択肢ではない」と強調しました(産経新聞)。
 しかし、第二期オバマ政権の外交政策は、第一期でクリントン国務長官が主導した軍事力の使用を躊躇しない「人道的介入」ではなく、外交力を優先する「ソフト・パワー」外交を最優先すると、川上高司さんは端的に解説されます。
 一つだけ、オバマ大統領個人の問題を指摘するとすれば、軍事力に訴えないと予め宣言してしまうところでしょう。結果として軍事力ではなく外交的な努力によって紛争解決に努めることには、誰も反対しませんが、軍事力に訴えないと先に言い切ってしまうと、相手は舐めてかかります。ウクライナ問題でのロシアもそうでしたし、3月に日本を訪問した際、尖閣諸島は日米安保条約第5条でカバーされると言いながら、やはり軍事力ではなく外交的努力で、と言い、中国は聞き逃さなかったことでしょう。あらゆるオプションを排除しないというのが安全保障の世界の常套句なのに、軍事力に頼らないと言ってしまえば、抑止力にはなり得ません。ノーベル平和賞を受賞して十字架を背負ってしまったせいでしょうか。
 中国は、その軍事的威嚇を、日本に対してのみならず、東シナ海と南シナ海を囲む周辺諸国に対しても執拗に繰り返し、ますますエスカレートしつつあって、さすがの中国ウォッチャーも「露骨に侵略的」という評価で一致します。ほんの数年前までは、「韜光養晦」という従来方針を変更したのではないかと諸外国から疑惑の目を向けられることを打ち消そうと躍起になり、飽くまで「平和的台頭」に固執したのとは、様変わりです。ほんの数年間で、一体、何が変わったのか。自信溢れる経済的台頭が背景にあるのは間違いないことでしょう。中国の軍事力に関しては、空母は練習艦を就航させたばかりですが、潜水艦の戦力は飛躍的に増強しており、中でも核抑止の有力な手段である戦略原子力潜水艦(いわゆる戦略原潜)による報復核攻撃能力を備えたことが強気の背景にあると説く論者もいます。国内の社会不安がのっぴきならない状況にあって、対外的な危機を煽っている事情もあるでしょう。これらが重なった上で、やはり、アメリカの出方を瀬踏みしているとしか思えない状況を感じます。つまり、アメリカは、アジアへの「リバランス」を唱えながら、財政問題や中東問題に忙殺され、アジアに振り向けることが出来る余力を持ち合わせているようにはとても見えない、と。
 チャーチルは、自身の著書「第二次世界大戦回顧録」の中で「第二次世界大戦は防ぐことが出来た。宥和策ではなく、早い段階でヒトラーを叩き潰していれば、その後のホロコーストもなかっただろう」と述べています。2003年の対イラク戦開戦にあたって、ブッシュ大統領も「ヒトラーに対して宥和政策をとったことがアウシュビッツの悲劇を生み出した。サダム・フセインも先制攻撃しないと大変なことになる」とイラク侵攻を正当化する根拠としたため、なんとなく分が悪い宥和策ですが、1938年のミュンヘン会議における英・チェンバレン首相の宥和策は、あくまで、結果としてヒトラーをつけあがらせるだけだったと記憶されるべきと思います。そして今、元国防総省中国担当のジョー・ボスコ氏はこう述べます。「中国に対して、米側には伝統的に『敵扱いすれば、本当に敵になってしまう』として踏みとどまる姿勢が強く、中国を『友好国』『戦略的パートナー』『責任ある利害保有者』『拡散防止の協力国』などと扱ってきた。だが、そうして40年も宥和を目指してきたのにもかかわらず、中国はやはり敵になってしまった」(産経新聞)。
 米世論調査会社ギャラップが米国の成人を対象に行った「最大の敵はどの国か」の2014年調査によると、2006年以来1位であり続けたイランが核兵器開発問題で歩み寄りを見せたため後退し、代わって中国が急浮上して晴れて1位となりました。米連邦大陪審は19日、サイバー攻撃で米企業にスパイ行為を行ったとして、中国人民解放軍のサイバー攻撃部隊(61398部隊)の将校5人の起訴に踏み切り、ホルダー米司法長官は同日、司法省での記者会見で「もううんざりだ。オバマ政権は、非合法的に米国企業に損害を与えようとするどの国の活動も見過ごさない」と述べ、中国を強く批判しました。そのほぼ一週間後、中国政府は、報復措置として、国内の銀行で稼働しているIBM製ハイエンドサーバーを撤去し、中国製に置き換えようとしている動きが報じられました。
 こうして見ると、新たな冷戦と呼ばれる事態が着々と進行しているのが見て取れます。ガキ大将が君臨していた子供の世界は、好むと好まざるとに係らず、とりあえず安定が保たれていましたが、ガキ大将がいなくなった子供の世界は途端に弱肉強食、ナンバー2の不満が一気に爆発し、既存の秩序を脅かします。安倍総理も常々主張されてきた通り、東アジアにおいて、近代的な法が支配する秩序を守る覚悟があるのかどうか、今の日本に問われているのだと思います。
コメント
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