風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

欧米の立ち位置

2014-06-01 20:18:49 | 時事放談
 中国が「核心的利益」と呼ぶものの始まりは、中国の戴秉国国務委員(当時)が言及した、2009年7月の米中戦略経済対話だったようです(Wikipedia、但し、本日見た同サイトは明らかに(1)と(2)の和訳を取り違えているので、以下では直しました)
   (1)国家の基本制度と安全の維持(維護基本制度和国家安全)
   (2)国家主権と領土保全(国家主権和領土完整)
   (3)経済社会の持続的で安定した発展(経済社会的持続穏定発展)
 上記(1)は明らかに中国の政体の維持、つまり共産党による指導体制としての社会主義制度を指します。(2)に何が含まれるか?が問題ですが、そもそも「核心的利益」という言葉自体、中国内のチベットの独立運動や、新疆ウイグル自治区における東トルキスタン独立運動を許さないのはもとより、台湾問題について他国(特にアメリカ)に対する警告と牽制のために用いられた政治的な用語だと言われます(PHP総研・前田宏子さんによる)。ところが、2010年3月に訪中したスタインバーグ米国務副長官らに対し、中国の政府高官が「南シナ海は中国の核心的利益」と発言したという噂が広がると、中国がそれまでの平和台頭路線を放棄し強硬路線に転じたとして、周辺諸国に衝撃を与えることになり、その後、中国脅威論の高まりを懸念した中国政府は「南シナ海を核心的利益とは言っていない」と反論し、2010年12月に発表した戴秉国国務委員(当時)の論文でも、台湾に関する言及はありますが、南シナ海には触れていないそうです(同上)。しかしながら翌2011年6月には中国外務省次官が公式に南シナ海を核心的利益と発言し、また2013年4月26日には、中国外務省・華春瑩副報道局長が記者会見で「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国の領土主権に関する問題であり、当然、中国の核心的利益に属する」と述べて、衝撃を与えました。もはや慎みは見る影もありません。
 上記(1)(2)を言い換えると次のようになります。自由な選挙によって国民の代表を選び政治を委ねるという、私たち日本人にも当たり前の自由主義的・民主制という欧米的な価値観を真っ向から否定する中国(=中国共産党)は、かつての明や清のように、集団指導体制になっただけの王朝支配(=共産党独裁)と言ってよく、国土は守っても国民までも必ずしも守るものではないことは天安門事件で明らかな、飽くまで王朝(=共産党)を守る私的軍隊である人民解放軍と警察組織を肥大化させ、不気味な台頭を続けるのに対して、どう対峙するかが世界共通の課題です。今日のブログのタイトルは、タイトル負けしそうですが、余り包括的に述べるのではなく、最近、目にした興味深い記事を紹介することで、お茶を濁したいと思います。
 一つはドイツに関するものです。
 ドイツも、ご多分に漏れず、昨今は中国との経済的な結びつきを強め、絡め捕れそうな勢いかと思いきや、必ずしもそうとは言い切れないようです。3月に習近平国家主席が訪独した際、「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」(ドイツ語: Denkmal für die ermordeten Juden Europas、通称ホロコースト記念碑)への見学を申し入れたのを拒否し、代わって戦没者追悼施設「ノイエ・ヴァッヘ」見学へのメルケル首相の同行を要望したのを、これまた拒否し、このあたりを消息筋の話として独デア・シュピーゲル誌は「日中間の歴史を巡る対立に政府は関与したくない」からと伝えています(以上、産経新聞より)。ドイツもフランスとの間で歴史認識を巡り苦労した経験をもち・・・とは以前、このブログでも紹介しましたが、戦後体制における敗戦国の立場は日本と共通し、戦争に勝ったわけでもない中国が戦勝国のような大きな顔をして戦後秩序の擁護者のように振舞うのは内心面白くないでしょうし、英・独・蘭のような旧・連合国とは明らかに違う皮膚感覚をもっているのだろうかと、私なんぞは勝手な想像を巡らせたくなりますが、それはさておき・・・。
 この訪独に際して、メルケル首相が習主席に贈ったモノが物議を醸しているようなのです。1735年の清朝の領土が示された古地図だそうです。ここまでは産経Webの記事によりますが、興味深いので正確さを期するために原典であるシドニー・モーニング・ヘラルド紙に当たることにします(4月2日付)。香港電として伝えられたところによると、この古地図は、イエズス会の宣教師による調査に基づくもので、18世紀の中国についての当時のヨーロッパの叡智を結集したものと言われます。中国固有の地(China Proper)、すなわち、ほぼ漢民族によって支配された中心的地域(Heartland)には、チベットや新疆ウィグルやモンゴルや満州は含まれず、台湾島や海南島も違う色の国境線で描かれているそうです(産経新聞では、満州、台湾、海南の文字を外し、尖閣諸島を加えました)。さすがに中国共産党中央委員会の機関紙・人民日報はこの贈り物を有難がらなかったようで、習氏の訪欧を仔細に伝えながらも不愉快な地図のことは伏せていたようです。興味深いのは、この地図の贈り物のニュースが中国本土に到達するや、様々な中国語メディアが伝えた地図は、チベットや新疆ウィグルやモンゴルやシベリアまで含む、中華帝国最盛期のもの(1844年にイギリスで発行)にすり替わっていたことでした。
 これら二つの地図は様々な反応を引き出しました。前者の地図を見て領土が限定的だったことにショックを受けた人がいましたし、"quite an awkward gift"(アブナイ?ヘタな?)と論評するレポーター、チベットやウィグルの独立運動を正当化するものだとメルケルさんを非難する人、ひいてはドイツに秘めた動機があるのは間違いないと論じる人、習氏はどう反応したのか?と訝るネット・ユーザーなど、さまざまです。他方、後者の地図を見て、偉大なる帝国にノスタルジーを掻き立てられ、「中華民族の復興」が真に意味するところを実現するのを勇気づけられたと得意がるネット・ユーザーもいたようです。メルケルさんは習氏に対し、最近のクリミア問題のように、ロシアが、20世紀半ばに、モンゴルの中国からの独立を助けたのを思い出させようとしたのではないかと訝る人もいます。しかし勝手な解釈を戒める声もあります。少なくともチベットと新疆ウィグルに関しては、1776年のアメリカ13州の地図を見せてテキサス・カリフォルニア両州はアメリカじゃないとは言えないのと同じことだと。
 再び産経新聞の記事に戻ると、「尖閣諸島や南シナ海などでの無理な領有権の主張、国際的に非難を受けている人権問題など、中国の無謀さは際立っている。メルケル氏が嫌悪感を示したとの見方があるようだ」と総括しています。実に意味深長なエピソードで、是非ともメルケルさん本人に真意を尋ねたいものですし、習近平国家主席との間でどんな会話があったのか聞いてみたい気がします。中国は、このたびのウクライナ問題では沈黙を保っていますが、チベットやウィグルや内モンゴルといった、ウクライナにとってのクリミアのような地域を抱え、今が平時ではなくて戦時であれば、スパイを放たれて独立運動を煽られかねないような危険な状況にあり(但し、クリミアにとってのロシアのような後ろ盾はそれぞれなさそうですが)、そうすれば南シナ海でベトナムを苛めるどころではなくなるような内憂を抱える一方、核心的利益の第一に挙げられる台湾(さらには南シナ海や東シナ海)は、いわばロシアにとってのクリミアであり、勝手な独立と併合という、明らかな国際法違反が国際社会からどのように受け止められるのかを、中国としては注意深く観察していることでしょう。そういう意味で、日本は、ロシアと領土紛争を抱える唯一の国として、アメリカを中心とする制裁の動きに付き合うといった消極的な態度ではなく、力による国境線の変更は断固として許さないという、日本独自の主張を明確にすべきだったと思います。それが集団的自衛権を取り戻す日本にとって、単にアメリカの戦略につき従うのではなく、いわば真の意味での自主独立の安全保障に踏み出す、安倍さんの言う積極的平和主義の真意でしょうし、これからの日本人にとっての試練でもあろうと思います。
 もう一つは、アメリカに関するものですが、長くなったので次の機会に持ち越します。前回も今回も次回も、ネタとして既に以前から温めていたものですが、最近、心境の変化があって、筆が(キーボードを叩くのが)なかなか進みません・・・。
コメント
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