風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

やっぱりイチロー

2016-08-29 23:28:53 | スポーツ・芸能好き
 今年は、オリンピック・サマーで、日本人選手の活躍あったればこそではあるが、すっかり楽しませて貰った。閉会式でも、次の開催地の首長として伝統的な着物姿で登場した小池東京都知事に五輪旗が手渡された後に行われたプレゼンテーション映像で、伝統的な、従い他を寄せ付けない孤高の日本ではなく、アニメやゲームのキャラクターを中心とするポップ・カルチャーの、つまりは世界に開かれた日本をアピールしたのは、実に洒落ていてオリンピックに相応しくて良かった。安倍首相がスーパーマリオに扮したのは、まあご愛嬌だったが、意表をついて多くの人を驚かせたという意味では成功と言えるし、登場の仕方としては確かによく出来ていた。日本より諸外国での評判の方が上々だったようだ。そんなこんなで、プロ野球もオリンピックには遠慮していたかのようだし、夏の高校野球は完全に霞んでしまって球児たちには気の毒だった。
 そんな今年の夏の、オリンピック前のことなので、今となっては遠い昔の話のようだが、今月が終る前に、今月初めに達成されたイチローのメジャー3000安打のことは、やはり書き留めておきたい。
 3000安打へ残り4本として本拠地10連戦を迎えたまでは順調で、さすがイチローと思わせたが、本拠地で僅か2安打に終わり、記録達成はなんと遠征に持ち越しとなってしまった。そのあたりの心境をイチローはこう語っている。
 「人に会いたくない時間もたくさんありましたね。だれにも会いたくない、しゃべりたくない。僕はこれまで自分の感情をなるべく殺してプレーをしてきたつもりなんですけど、なかなかそれもうまくいかず、という苦しい時間でしたね」
 そしてついにその日が来た。8月7日、ロッキーズ戦7回。そのときの心境をイチローはこう語っている。
 「これはみなさんもそうですけど、これだけたくさんの経費を使っていただいて、ここまで引っ張ってしまったわけですから、本当に申し訳なく思いますよ。それはもうファンの人たちの中にもたくさんいたでしょうし、そのことから解放された思いの方が、思いの方がとは言わないですけど、そのことも大変大きなことですね、僕の中で」
 引退したデレク・ジーターは、自身の運営するウェブサイト「プレイヤーズ・トリビューン」に掲載したコラムで、「イチローについて何よりも称賛したいことは、一貫性に関するモデルであるということだ。それは、見過ごされてしまいがちだが、重要なものなんだ」と語っている。最近はスタメンを外れ代打出場が多くなっても、日々のルーチンを怠ることはなく、40歳を超えてなお、第一線で活躍し続ける。レーザービームと称賛される肩の力も、一つ先の塁を盗む脚の力も、左右に打ち分ける多彩な打撃の力も、40歳を過ぎてなお変わらない。いや年齢を超えて変わらないと言うよりもむしろ進化し続けていることこそ、イチローの一貫性と言えるのかも知れない。環境が変わる中でも、変えなかったこととして、イチローは次のように答えている。
 「感情を殺すことですね。このことは、ずっと続けてきたつもりです。今日、達成の瞬間はうれしかったんですけど、途中、ヒットをがむしゃらに打とうとすることが、いけないことなんじゃないかって、僕は混乱した時期があったんですよね。そのことを思うと、今日のこの瞬間は当たり前のことなんですけど、いい結果を出そうとすることを、みんな当たり前のように受け入れてくれていることが、特別に感じることはおかしいと思うんですけど、僕はそう思いました」
 そして今後についてはこう答えている。
 「もう少し……感情を無にしてきたところを、なるべくうれしかったらそれなりの感情を、悔しかったら悔しい感情を、少しだけ見せられるようになったらいいなと思います」
 少し丸みを帯びて来たようだ。イチローも年取ったなと思う。いや、本人自身が年を取ったと言った。
 「この2週間強、犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけれど、あんなに達成した瞬間にチームメートが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3千という数字よりも、僕が何かをすることで、僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した瞬間でした」
 孤高のプレイヤーとの印象が強いが、人は他人に認められることにこそ最高の価値を見出す。人の人たる所以であり、イチローもやはり人の子なのだ。もう少し、その一貫性に関するモデルであるところを見ていたい。
コメント
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