風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国の心掛けの悪さ

2024-09-23 07:18:31 | 時事放談

 大谷選手の快挙に浮かれているが、忘れてはならないことがある。深圳にある日本人学校近くで、同校に通う男の子(10歳)が男(44歳)に腹部を刺された事件だ。男の子は病院で手術を受けていたが、19日未明に亡くなった。お母さん(中国人)も一緒だったのに、子供を狙うとは卑劣であり、痛ましい。

 事件があった9月18日は満州事変の戦端が開かれた柳条湖事件が起こった日で、反日感情が高まりやすいが、今回の事件との関連は不明のようだ。当局は容疑者の男の身柄を確保し、取り調べを行っているが、動機など詳細な情報は日本側に伝えていない。中国外務省は「これは個別事案で、このような案件はいかなる国でも発生する。中国はこのような不幸な事件が起きたことについて遺憾と心の痛みを表明する」と述べた。遺憾と言いながら「いかなる国でも発生する」とは余計だ。詮索され、あるいは関連づけられるのを鬱陶しがっている様子がよく分かる。つまりは、前科者の偶発的な事件としてお茶を濁そうという魂胆だ。中国共産党の統治に不都合な情報の開示など期待できない。

 この事件について、一部の中国メディアは報じたが、国営や大手メディアはだんまりを決め込んでいる。その記事の最後には「理性的な愛国心とは、歴史と現実の尊重に基づき、客観的かつ冷静な態度で自国を愛し、支持する表現だ。日中関係における個別の事件については、冷静さを保ち、合法的なルートを通じて懸念を表明し、政府の外交努力を支援し、文化交流と市民友好を促進し、両国関係の平和的発展に貢献するべきだ」との一文が添えられているらしい。これ以上の混乱を望まない当局の意志を感じるばかりで、この程度の扱いかと思うとなんだかやり切れない。

 6月にも蘇州で、日本人学校のスクールバスを待っていた日本人の母子が刃物で切り付けられ、かばった中国人女性が亡くなるという痛ましい事件が起きた。ここでも中国外務省は「偶発的な事件」との見解を示しながら、動機や背景など詳細は警察が捜査中として、主管部門に問い合わせるよう促すだけだった。最近の中国の景気低迷は治安の悪化に繋がっているようで、無差別に刃物で切り付ける事件が相次ぐという。それにしても、こうも情報開示が不透明では、現地で生活する駐在員家族はさぞ不安だろう。

 そもそも中国という国は心掛けがよろしくない。中国共産党は抗日戦争(これは単なる二国間の戦争であるばかりではなく、民族革命戦争として中国革命の過程に位置づけられる)を勝利に導いたことに存在意義を置くが、二重の誤りがある。先ず、日本と前線で戦ったのは国民党であって共産党ではない(共産党は背後に隠れて戦力を温存し、後の国共内戦に勝利することになる)。次に、それでもついぞ中国は大日本帝国に勝てず、日本がアメリカに破れて自滅しただけだった。然るに、抗日戦争勝利のプロパガンダにより、憲法上も、歴史教育(=ヘイト教育)上も、抗日抜きには語れず、日中関係を政治問題化している。そのような情報統制下で育った若者たちは、実際に日本を訪れて生の日本人や日本の社会に触れて修正しない限り、「小日本」「日本鬼子」のような差別用語を引き摺り、「愛国無罪」を受け入れ続けることになる。日本人学校を「スパイ養成機関」「現代の租界」などと非難する声も放置されているそうだ。

 こうして、靖国神社のように日本人が神聖だと思う神社仏閣の石柱に「厠所」「軍国主義」などと落書きしSNSに投稿して恥じない中国人が出てくるし、この落書き事件を伝えたNHKのラジオ国際放送で原稿にない「尖閣諸島は中国の領土である」などと不適切な発言をする中国籍スタッフが出てきたりもする。

 昨今の日中関係で懸案とされて、喉に小骨(とは言い切れないほどの骨もある)が刺さったようにぎくしゃくするのは、福島原発の処理水を汚染水と呼んだり、日本の水産物を輸入禁止にしたり、理由を明かすことなく駐在員を拘束したり、査証(ビザ)免除措置を停止したままだったり、尖閣海域に侵入を繰り返したり、挙句は領空侵犯したりと、全て中国共産党側が仕掛けているものだ。これも一種のサラミスライス戦術であって、先に一歩踏み出しておきながら、一歩退くことで和解か譲歩を演出して有り難がられる仕儀にもなりかねない。

 それもこれも、関係性の中で、日本が自重してきたからだろう。靖国参拝問題や従軍慰安婦問題を焚き付けたのは日本のリベラルを自称する左派メディアで、今、それ自体を批判するつもりはないが、そこで図に乗る中国や韓国への対応は弱腰だった。ここまで言ってもやっても日本は遺憾と称するだけで実害はないと、足下を見られているに違いない。かつて米中和解に漕ぎつけて中国を懐柔したニクソン元大統領は後に、フランケンシュタインをつくってしまったのではないかと自省した。日本も、是々非々の対応をせずに不幸な関係を構造化し、中国をのさばらせてしまったことを反省すべきかもしれない。煮ても焼いても食えない相手と付き合うには、故・安倍元総理のような忍耐と多少の人の悪さが必要だろう。日本人には(とりわけ良い顔をしたがるリベラル・メディアには)耐えられないかもしれないが。

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