物部の森

日常感じたこと、趣味のこと、仕事のこと・・・等々
日記風に書いてます。

Yちゃんが残してくれたもの

2012年12月22日 | Weblog
 恵比寿にあるD社を尋ねる。同社は今年2月に亡くなったロンドン時代の旧友Yちゃんが代表を務めていたデザイン会社。現在はYちゃんと一緒に会社を立ち上げたMさんが引き継いでいる。
 かれこれ4~5年前か、同社を初めて訪問したときに、YちゃんからMさんを紹介されて名刺交換をした。
 Yちゃんの葬儀では、Mさんは友人代表で弔辞を読んだ。私は参列したが、そのときは話をすることができなかった。その後MさんからFacebookで友達申請をいただき、それ以来、SNSやメールでやりとりする間柄になった。
「東京に来られる際はぜひ事務所に寄って下さい。Yが好きだった店で一杯やりましょう」とお誘いを受けており、この度訪問させてもらった。
 事務所に入る。以前と変わらない懐かしい内装。中には大人の身長くらいあるGoogle Mapのポインターを模ったオブジェが置いてある。Googleもクライアントの一社だ。
 新しいスタッフを紹介してもらったが、実はMさんとこうやって直接会って話すのも初めてだ。最近の広告作品などを見せてもらってから、「Yが好きだった店へ案内しますので、飲みながらゆっくり話しましょう」と、「ura.ebisu」という素敵なビストロへ連れて行ってもらう。そこでYちゃんの思い出や、仕事の話、お互いの人となり(ほぼ初対面だからね)などについて、グラスワインを傾けながら色々と話をする。
 MさんはYちゃんとは高校時代の大親友。大学を卒業後就職してからも「一緒に何かやりたい」と、今の会社を二人で立ち上げた。クリエイターであるYちゃんが代表で、企業法務や知的財産管理といった部分をMさんが担当し、二人三脚で順調に歩んできた。2006年には、広告アワードでは世界的権威であるカンヌ国際広告賞も受賞した。
 Yちゃんの病気のことは、Mさんは発病当時から聞かされていて、もしものときには ― それは高い確率で起こると言われていた ― どのように会社を存続していくかについても準備していたそうだ。
 そしてYちゃんが亡くなり、Mさんが代表を引き継いだ。もともとはデザイナーではなく、バックオフィスを担当していたMさんは、クリエイターとともにデザイン面にも関わりながら、「新生・D社」を牽引してきた。
「おかげさまで、今年は業績は今までで一番良いんですよ。コンペでの勝率も高い。スタッフも若手クリエイターの登竜門的な有名広告賞を取りましたし。ただ今年のクライアントからの発注は、Yに対する一種の不祝儀だ、来年以降が勝負の年だとスタッフたちと言ってます」
 それを聞いて安心した。中小のデザイン会社は個人の才能やセンスに因るところが大きい。僭越ながら、天才肌のYちゃんが亡くなってから、D社の行く末を心配していたのだ。正直にそのことを言うと、Mさんも「自分もそう思ってました」とニッコリと笑った。この人なら大丈夫だと確信した。
 ふと、デイブ・グロールを思い出した。
「唐突ですけど、Mさん、ハードロックお好きですか?」
「はい、大好きです。学生のときはバンドやってましたし」
「ああ、そうですか。じゃあ、この例えは分かってもらえるかな。私、Mさんの話を聞いてて、何か、デイブ・グロールみたいやなあって思ってたんですよ」
「はぁ…」
「カート・コバーンがピストル自殺して、ニルヴァーナは解散しました。その後、カートの陰に隠れていたドラムのデイブ・グロールがフー・ファイターズを立ち上げました。最初、天才カート・コバーンがいないバンドなんてダメだろうと、誰もが思ってました。ニルヴァーナ好きの僕もね。でも結局、デイブはフー・ファイターズのフロントマンとして、バンドを引っ張ってきた。そして、今やフーファイは、キャリアや実績面ではニルヴァーナに勝るとも劣らない、いや、それ以上のバンドに成長しましたよね。僕には、Yちゃんがカート・コバーン、Mさんがデイブ・グロールに映ったんですよ」
「うわあ、なるほど! そんなふうに言ってもらえるとは、嬉しいです!」
 良かった、Mさんがロック好きで。
 店を出て、今度はMさんが大阪に来られるときに会いましょうと、最後は固い握手をして別れる。

 翌日、Mさんからメッセージが来た。
「(前略)デイヴ・グロールに例えていただき、目から鱗というか、少しだけ残っていた迷いみたいなものがスッと消えました。来年はさらに堂々と歩いていけそうです。(後略)」
 Mさんと私。ほとんど接点のなかった二人が、今後も末永い友情を育んでいけそうだ。
 これもまた「Yちゃんが残してくれたもの」の一つなのである。
コメント
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