ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

平山洋介(2009)『住宅政策のどこが問題か』光文社新書

2011-07-10 10:49:21 | Book

なぜ日本の住宅地はこう、、画一的でつまらないのか。
ヨーロッパに旅行した人なら誰もが思うのではないだろうか。
この問いはすなわち、どうして寿命が短いのか、
なぜ日本人は家を持ちたがるのか、という疑問と同じものになるだろう。
みなが家を持ちたいから、よさそうな安い土地(狭い郊外の分譲地)を探し、
古いものを壊して建てる。最近はプレハブ工法とかで、
工場で大方のパーツを作り、土地に運んで組み立てるだけ、というのが
一番安いらしい。工期も短くして、労働経費も安くして、1000万円以下で
引き渡す。
なんかおかしい。私は家を持ちたいという願望もないので、余計理解できない。
なぜ、日本はこうなんだろうという疑問は、
この本が8割くらい答えてくれた。

日本の、二人以上世帯(世帯主が45~54歳)における持ち家率は
なんと85%。同様の世帯の65歳以上で見ると、90%になる。
戦前の1941年には、住宅のうちの持ち家率は22%と低かったが、
1958年には70%を超える。急激な変化が起きた。

その理由として、本書のメインの仮説は、
政府が一般的な中流家庭の持ち家取得を政策的に促進したから。
これを含めて列挙すると

●推進政策関連(住宅政策と言うより、景気対策として)
・住宅金融公庫(07年に廃止)による融資、
 不景気になると頭金制約を下げるなどして経済政策として促進
 ステップ償還、ゆとり償還、承継償還など・・・
・地方住宅公団(都道府県などによる公団)など
 公的セクターによる宅地分譲
・住宅ローン減税

●賃貸、公的団地の抑制政策
・地代家賃統制法(1941~1987)で、家賃を統制、敷金の額を
 規制し(how?)、借家ビジネスを拡大させなかった
・劣悪で量的に不十分な公的団地しか作らず、所得制限を設けたため
 ある程度所得が上がれば追い出された
・2000年代に入り、公的住宅の提供責任は市町村へ。
 財源もないし、作れば作るほど生活保護世帯が流入するというジレンマがあり、
 積極的に作る環境ではなかった

●経済環境
・経済成長によるインフレ経済の持続
 住宅、というより土地の資産価値は上昇し続け、住宅さえあれば
 年老いたときに資産価値も「上がった」。
 ちなみに、現在は購入時から資産価値は下がり続ける。

今朝の日経新聞一面でも、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が
発売している低金利の長期ローン「フラット35」が発売期間を
延長するという話が載っている。
はたして、こういう支援にどれだけの税金が投入されているのか。

上の要因のうち、資産価値はどんどん下がっているし、
所得も上がっていないし、加えて親の世代と子の世代は居住地の
選好が異なってきていて、相続がナンセンスになってきているし、
大体相続される側の年代が60歳を越えているので、そんな年に
家をもらっても困るし・・・と環境はずいぶん変わってきている。
それでも、政策的な「推進」は続いているように見えるし、人々は家を買う。
謎は深まる。

また、さまざまな形の世帯が、良質な住環境を得るには
賃貸マーケットの質的改善が欠かせないと思うが、それにはどうしたら
よいのか。
そこらへんの具体的な解決策は本書の中にはなかった。

私の価値観からすると、住宅、マンションはもっと技術革新されても
よい気がする。オートロックや、高齢者向けサービスなどの
サービス面での革新だけでなく、太陽光発電などのエネルギーや
ワイヤレスなど通信、防火・防音・・・あまり想像が広がらないが、
そういうハード面での進化があってよい。
そのようなマンションや住宅は、まず賃貸で火がついて、
分譲でも広がっていく、という形が自然ではないか。
ただ、現状では賃貸の市場価格が低いために、技術革新への
投資がなされにくい・・・そんな風に見えるが、どうでしょうか。


・・・このほかのトピックとしては、住宅保障という考えのなさ、
住宅に置けるセーフティネットがどれだけ働いていないか、
働いているとすれば、子育て世帯などの「標準世帯」のみで、
単身者は長らく入居要件になっていなかったり、住宅金融公庫で
融資してもらえなかったり、、、といった歴史を紹介している。

なぜ、今も人々の選好は変わっていないように見えるのか。
(本書の中のデータは2004年が最新。その後は持ち家率などどうなのだろう)
少なくとも、地方都市にいれば、30歳代前半の子供のいる世帯は、
疑いもなく家を建てようとしている人が多い。(転勤の多い会社でも!)
周りの人にインタビューしてみることにするか。