ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

ハッジ・アハマド・鈴木(2002)『イスラムのことが―』

2011-09-12 01:50:50 | Book
9.11から10年。
アルカイダが「イスラム原理主義組織」と説明され、
10年間ほぼ毎日耳にした割には、イスラムのことを
知らない。と思って手にしたわけではなく、今月24日
からエジプト、トルコに行くので読んだのだが、
衝撃的なことに気づいた。
私はこの10年、イスラム教徒による本、記述をたぶん
意識的にはひとつも読んでいない。
大学教授らの文章や、新聞記事の中のアフガニスタン人の
声、アメリカの言い分はたくさん見たのに、イスラームの
人が書いた本をとって読んだりはしていない。

『イスラムのことがマンガで3時間でマスターできる本』
には、「日本人イスラム教徒が語る」とついている。
著者、ハッジ・アハマド・鈴木さんは、父親の代からの
イスラム教徒らしい。本は(図書館で借りたので)
2002年に出版されたもので、9.11に触れる部分もあり、
この事件を本当の意味では考えてなかったのだと気づかされた。

本には、基本事項として、一神教であることや偶像崇拝禁止、
クルアーン(コーラン)の論理性、ムハンマド(預言者)は
570年生まれの実在した人で、したがって旧約聖書などに
あるような「神話」の世界ではなく、彼が伝えたことも、
憲法、民法、商法などにまたがる実務的な規則だったこと、
などを書いている。(マンガは実際、ほとんどない!)

ところどころで強調するのは、
・イスラームとムスリムは違う
 イスラームは完成された教えのことで、ムスリムは不完全な
 人間、信者のことであり、ピンからキリまでいる。
 異端なムスリムを見て「イスラームはこれだから」という
 決めつけはしないでほしい

・「原理主義」はイスラームではなくキリスト教のもの
 「神を信じれば病気も治る」といって病院に行かないような
 キリスト教一派に用いられていたが、イスラームは実学としての
 教えがほとんどなので、イスラームに原理主義とつけるのは
 おかしい

・サダム・フセインはとんでもない独裁者で、彼のクウェート
 侵攻などに対応したがために、アラブ諸国はオイルマネーを
 使い果たし、国庫が空になった代わりに大量の武器が残って
 しまった

9.11に直接触れているところでは、
・9.11を肯定するムスリムはほとんどいないが、
 その後、アメリカがイスラエル軍のパレスチナ攻撃を
 あからさまに応援したため、反米意識は確かに強まった。
 特に、2002年に20歳のパレスチナ人の女の子が
 自爆テロをした事件で高まった

・アルカイダの犯行だとして、彼らの拠点となっているという
 土地、アフガニスタンが破壊されたが、アフガニスタンが
 それほどに巨悪なことをしたわけではなく、アフガン戦争
 は受け入れがたい(アフガニスタンはムスリムがほとんど)

・アフガン戦争の際に、「非民主主義的」「権的」「女性
 の権利もいきわたらない未開の国」のような宣伝がされ、
 イスラーム全体の尊厳が損なわれたため、当然反米意識に
 つながった

・アメリカにテロをしうる存在として(と明言しているわけでは
 ないが)、イラクのフセイン大統領が解説されている
 彼は元々アメリカとは蜜月の関係で、湾岸戦争でいきなり「裏切られた」
 と感じており、
 多くの同胞が殺されたことで恨みを持っている。アメリカは
 湾岸戦争の際、彼を殺すでもなく権力から
 引きずり下ろすでもなかった(それは中東の緊張をそのまま
 にしておくことで、イラク周辺国の武器需要が高まり、アメリカ
 の商機になるからだ、とも書いている)
 「(湾岸戦争後の)10年は、(テロ準備には)十分な時間だ」 とも。

・・・
追悼式典を少し見ていた。
3000人がなくなった同時多発テロで、
いったい何人の人がその後の戦争で死んだ
のだろうか。
テロの犯人は、当然ながら飛行機の中で他の乗客とともに死んだ。
その首謀者が生きているとなれば、当然刑事罰に相当するから
捜査するのは当然だが、戦争による攻撃でそれに代えた。
論理的ではない。法の枠組みを越えている。
とすれば、説明するのは「民主主義」という言葉で覆った
「世論」。純粋に言えば被害者意識と怒りだろう。
10周年記念の海外ニュースを観ていて、ワールドトレードセンターや
ペンタゴン、ハイジャックされた飛行機などが、いかに身近な場所や
ツールだったかを思った。日航機の御巣鷹山墜落は、大阪行きの便だった
こともあり、当時大阪で勤めていた私の両親にはとても身近で
被害にあった同僚もいたと聞いたことがある。
衝撃としては近いものがあるかもしれない。感情的にならない方がおかしい。

しかし、「この感情をどう始末するのか」ということへの答えとして
戦争をするのは間違っている。これは確かだから、他の部分は
統治者が努力して整合性をつけていかなければならないのだと思う。
それにしても、オサマ・ビンラディンがもっと早く捕まればよかった。
戦争するだけのエネルギーを使って、彼を逮捕して、裁判にかければ
よかった。「それでは、アルカイダの攻撃は今後も続くことになる」と
いうのはそうだっただろうか。「報復の報復」が戦争のどれだけの部分を
占めたのか図ることは出来ないが、相当大きいのではないかと思う。