5月10日のNY株式市場は欧州系ヘッジファンドの破たんの噂で荒れる展開となった。このところ話題のGM(ゼネラル・モーターズ)に関連したものである。3月中旬の赤字決算の見通し発表以降ご存知のようにその後事態は急展開し、日本国内が連休中の現地時間の5月5日格付機関のひとつS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)社がGMとフォードの2社の長期債格付けを投機的水準(投資不適格)への引き下げを発表した。両社の長期債は、いわゆる「ジャンク債」となったわけだ。
話をGMに絞ると、まず、この発表の時期の問題がある。3月時点の業績悪化予想から格付機関は引下げ見通しを発表していたが、通常は一定の期間、対象企業の対応姿勢やその後の動向を見極めることになるが、市場関係者はその期間が秋口あたりまで掛かるものと踏んでいた。したがって、今回の不意を突くような形の発表は想定外だった。
とは言うものの市場関係者の間では、同社の対応策がその前の段階で希望的観測とでも表現できるほど、かなり不透明な部分が多かったことから(不振が予想される大型車に注力する意向を示していた)、格下げは時間の問題と見られていたのは否めない。このことは格下げ発表前の段階で、既に同社社債がジャンクの水準まで売り込まれていたことからもわかる。ただしそこはGMである。キャッシュ・フローの面で行き詰っているわけではない(保有キャッシュ260億㌦)ので、直ぐに経営が立ち行かなくなるというようなことは考えにくい。
そこでこうした混乱状態のなかでの価格変動を巧みに捉えて利益を出すことに主眼をおくヘッジファンドが動き出す。まず割安水準と見られるところまで下げた(利回り上昇)GM債の買い付けに回る(ロング)。そして、同時に足元の状況と先行きを考えて下げ余地が大きいと思われる同社の株式の売り持ち(ショート)のポジションを作る。
シナリオが狂ったのは、まず株式のポジションからだった。
87歳の老投資家カーク・カーコリアン氏率いる投資会社トラシンダ社が、5月4日にGM株を最高2800万株(発行済株数の4.95%)まで一株31ドルで購入することを発表したことによる。ちなみにこの価格は、前日の株価との比較で12%ものプレミアムとなるものだった。発表を受け、この日のGM株は18%もの値上がりを記録する。トラシンダ社はラスベガスのカジノやホテル経営で知られるMGMミラージュの経営権を握っていることでも知られている。同氏の登場でGM株の値動きは下落から急反転へと状況を変えてしまったわけだ。おまけにGM自体が、配当継続の意向を示したことも、その反騰の後押しをすることとなった。一方のGM債の方は、突然の格下げで売り直される結果となり、さらに下落してしまった。株売り、債券買いのポジションを取っていたヘッジファンドは損失を膨らませることになった。これがGMを巡る投資で発生していると思われる事態の基本構造である。実際には、債券を買う際にCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というようなデリバティブを利用することで資金効率を上げる(手持ち資金の数倍の運用)方法が採られており、価格が思惑と逆に動いた場合には、当然損失も大きくなる。
市場の方は、そうした損失を抱えたファンドが発生しているのではないかと見ており、今回のように噂の類にも敏感に反応してしまうことになるわけだ。
足元の金市場は、4月下旬に400トン以上もの規模に膨らんだネットの買い残の整理に入っている。先週末の米雇用統計の市場予想を遥かに超えた好結果(4月27万人の雇用増)にドルが買い戻されるにしたがい金は売られた。ただし、長期の支持線となっている200日移動平均線近辺で下げ止まっており、“打たれ強い”イメージである。これは下値に現物買いが入っていること。そして今回取り上げた大手企業の急速な財務内容の悪化とそれに伴った運用サイドの“傷み”が連想させる信用リスクの上昇が、金市場を支えていることによる。ドル建て金価格はいよいよ三角保合い傾向を強めており、値動きは煮詰まりつつある。
話をGMに絞ると、まず、この発表の時期の問題がある。3月時点の業績悪化予想から格付機関は引下げ見通しを発表していたが、通常は一定の期間、対象企業の対応姿勢やその後の動向を見極めることになるが、市場関係者はその期間が秋口あたりまで掛かるものと踏んでいた。したがって、今回の不意を突くような形の発表は想定外だった。
とは言うものの市場関係者の間では、同社の対応策がその前の段階で希望的観測とでも表現できるほど、かなり不透明な部分が多かったことから(不振が予想される大型車に注力する意向を示していた)、格下げは時間の問題と見られていたのは否めない。このことは格下げ発表前の段階で、既に同社社債がジャンクの水準まで売り込まれていたことからもわかる。ただしそこはGMである。キャッシュ・フローの面で行き詰っているわけではない(保有キャッシュ260億㌦)ので、直ぐに経営が立ち行かなくなるというようなことは考えにくい。
そこでこうした混乱状態のなかでの価格変動を巧みに捉えて利益を出すことに主眼をおくヘッジファンドが動き出す。まず割安水準と見られるところまで下げた(利回り上昇)GM債の買い付けに回る(ロング)。そして、同時に足元の状況と先行きを考えて下げ余地が大きいと思われる同社の株式の売り持ち(ショート)のポジションを作る。
シナリオが狂ったのは、まず株式のポジションからだった。
87歳の老投資家カーク・カーコリアン氏率いる投資会社トラシンダ社が、5月4日にGM株を最高2800万株(発行済株数の4.95%)まで一株31ドルで購入することを発表したことによる。ちなみにこの価格は、前日の株価との比較で12%ものプレミアムとなるものだった。発表を受け、この日のGM株は18%もの値上がりを記録する。トラシンダ社はラスベガスのカジノやホテル経営で知られるMGMミラージュの経営権を握っていることでも知られている。同氏の登場でGM株の値動きは下落から急反転へと状況を変えてしまったわけだ。おまけにGM自体が、配当継続の意向を示したことも、その反騰の後押しをすることとなった。一方のGM債の方は、突然の格下げで売り直される結果となり、さらに下落してしまった。株売り、債券買いのポジションを取っていたヘッジファンドは損失を膨らませることになった。これがGMを巡る投資で発生していると思われる事態の基本構造である。実際には、債券を買う際にCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というようなデリバティブを利用することで資金効率を上げる(手持ち資金の数倍の運用)方法が採られており、価格が思惑と逆に動いた場合には、当然損失も大きくなる。
市場の方は、そうした損失を抱えたファンドが発生しているのではないかと見ており、今回のように噂の類にも敏感に反応してしまうことになるわけだ。
足元の金市場は、4月下旬に400トン以上もの規模に膨らんだネットの買い残の整理に入っている。先週末の米雇用統計の市場予想を遥かに超えた好結果(4月27万人の雇用増)にドルが買い戻されるにしたがい金は売られた。ただし、長期の支持線となっている200日移動平均線近辺で下げ止まっており、“打たれ強い”イメージである。これは下値に現物買いが入っていること。そして今回取り上げた大手企業の急速な財務内容の悪化とそれに伴った運用サイドの“傷み”が連想させる信用リスクの上昇が、金市場を支えていることによる。ドル建て金価格はいよいよ三角保合い傾向を強めており、値動きは煮詰まりつつある。