リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

S.L. ヴァイス:メイキング・オブ・ミッシングパート(4)

2020年09月21日 09時28分10秒 | 音楽系
ヴァイオリン(本当はフルートですけど)のパートを復元するにはいくつかのステップがあります。その中でも一番重要なのは、残されているリュートパートのバスをよく吟味してどういう和音進行をしているのかを判断する必要があります。別の言い方をすればバスに通奏低音の数字をきちんとつける必要があります。この連載では「数字付け」はこのブログの読者にはなじみがないと思いますので行いませんが、残されているパートはバスだけでなくリアライゼイション(バスに対してどのような和音をどのような形で鳴らすかを表したもの)もついていますので事実上数字は不要でしょう。

バロック音楽におけるバスは曲のハーモニーをすべて表わしているので、それはいわば曲の設計図あるいはDNAと言っていいと思います。これがもしメロディだけが残っている場合だと、復元は一定の範囲には収まらずかなり多様化してしまうことになります。バスとリアライゼイションが残っているおかげで、失われた原曲に近い一定の範囲での復元が可能になります。

とはいうものの、自動的にメロディが決まっていくわけではありません。本曲のタイトルが「Concerto ....」となっているように、ヴァイオリン(フルート)とリュートがお互いに掛け合いをしながら曲を展開していく、というのがこの場合の「Concerto ...」の意味です。こう形式はデュオ・コンチェルタント(協奏的二重奏)と呼ばれています。同じヴァイオリン(フルート)とリュートの二人で演奏するのでも、リュートが通奏低音の役割になっている場合は、ヴァイオリン(フルート)ソロ曲になります。

デュオ・コンチェルタントの場合は二つの楽器(主にヴァイオリンとリュートの上声部)でフレーズのやり取りをしますので、リュートで使われているフレーズをヴァイオリンに取り入れる必要があります。

でもそうしたら自動的にメロディが出来上がるという簡単なものではありません。あとは復元する人の考え方、腕しだいでいかようにもなります。実は本曲の復元はすでに何人かの人が試みています。たぶん一番古いのはヴァイス全集に所収されている版で、音楽学者のアイリーン・ハイディディアン氏によるものです。あとリュート奏者のリチャード・ストーン氏が復元をして録音をしています。ただこちらの楽譜は出版されていません。