リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

磯田道史著「日本史を暴く」(中公新書)

2023年02月28日 12時25分21秒 | 日々のこと
磯田氏は草書体でかかれた昔の資料を普通の新聞を読むように読むことができるという方です。日本の古い文献は江戸時代まではそこそこの分量らしかったですが、江戸時代になると膨大な量が書かれたり印刷されたりしたそうです。

なんでも東京神田の古書店で格安で手に入るものもあるそうです。いわば未開拓の文献ジャングルがあるらしくて、磯田氏はそういうジャングルに分け入っていろいろ新しい視点を示してくれる希有な方です。氏の著書に示された様々な視点に価値があるのはそれが一次資料から得られたものだからです。

リュート音楽に関する資料も一次資料を使っているか、あるいは一次資料が示されているか、それにたどり着けるかどうかがとても重要です。単に有名な先生から聞いた話レベルではそれは居酒屋でクダを巻いているおっさんの話と何も変わりません。

磯田氏の著書は今までにも何冊も読んだことがありますが、全て自ら読んだ一次資料をもとに執筆されています。過去の災害や疫病の話もとても重要な視点や思わぬ発見があります。本書には一般的な歴史資料からは得られない、いわば歴史の狭間に入ってしまって埋もれてしまった興味深い事柄が書かれています。何か一貫したテーマがあってそれを一次資料を駆使して再構築するという大がかりなものではなく、オムニバス形式で書かれていますので、気軽に読める内容です。

それにしても一次資料を紐解くとこんなにも沢山新しい視点が見えてくるのは驚きです。埋もれた資料はまだまだ沢山あるそうですから、読み解いていく先に新しい歴史観が構築されていくかも知れません。これからの磯田氏の仕事に注目です。