リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハのリュート作品(3)

2007年09月08日 11時23分43秒 | 音楽系
さて現代のリュート奏者たちがバッハのリュートソロ作品を演奏するにあたってどのような工夫をしているかを見てみましょう。といっても、全部を詳細に見ていくのは大変なので思いついたところから。(笑)

まず組曲ホ短調BWV996を見てみましょう。この曲はギター愛好家の中では組曲第1番として割合とよく知られている曲です。どうして第1番なのかというと、20世紀初め頃に出版された、ハンス・ブルーガーのギター式リュート用のバッハリュート作品集で、この曲が第1番になっていたことから来ているようです。

さてこの曲はリュート奏者の皆さんはいろんな調で演奏していますね。原調のホ短調はバロック・リュートではとても扱いにくい調なので、ホ短調で演奏している方が少数です。ホ短調での演奏者は、ヤコブ・リンドベルイです。バッハはリュートで演奏しているかのように聴かせるために、当時の鍵盤音楽によくある音域よりはかなり低いところでこの曲を書いていますが、本物のバロック・リュートにとってもこの曲はちょっと低すぎて、バス弦の音域にあたるところに臨時記号が出てくるともうアウトです。リンドベルイはどういう工夫をしているのかわかりませんが、手の大きな彼のことなので、がばっと10コースあたりを押さえてレのシャープを出しているのかも知れません。

バッハのリュート作品(2)

2007年09月06日 12時16分09秒 | 音楽系
唯一のリュートのためと銘打たれている作品であるBWV995(組曲ト短調=無伴奏チェロ組曲5番ハ短調と同一作品)にしても、冒頭から低いソの音(コントラG)が出てきまして、この音はバロックリュートの最低音より1音低いです。昔(70年代)はまことしやかにコントラGを持った14コースバロックリュートが存在していたのだ、という人がいて、実際に14コースバロックリュートが製作されたりもしましたが、どうもそんなリュートは存在していなかったようです。この作品は「リュートのための」と書かれているし、テクスチュアは明らかに鍵盤楽器のそれとは異なるんですが、それじゃヴァイスの作品みたいにそのまま完全に何の変更もなしにリュートで弾けるかというとそれがだめなんですね。

要するに、奏者側から見るとバッハのリュートのためのソロ作品は、結局「編曲」をしなくてはだめでして、実際現代のリュート奏者たちはいろんな工夫(移調やバス音のオクターブ移動など)をして演奏をすることになります。ですから例えば無伴奏ヴァイオリンのためのシャコンヌをリュート用に編曲するのと、リュートのためのプレリュード、フーガ、アレグロを「リュートのために!」編曲するのは、同じような作業ということになるわけです。というか、実際は弦楽器であるヴァイオリンのために書かれたシャコンヌの方が、鍵盤楽器的テクスチャを持つ「リュートのためのプレリュード、フーガ、アレグロ」よりリュートになじむという逆転現象?がおきています。何か変な感じでしょ?(笑)

バッハのリュート作品(1)

2007年09月05日 23時49分34秒 | 音楽系
バッハのリュート作品は、作品番号で言うと、BWV995~1000と1006aの7曲です。(ソロ作品です)あとヨハネ受難曲、マタイ受難曲(初稿)、カンタータ198番にリュートが指定されています。

ソロ作品は、リュートのためのオリジナル作品ということですが、これがなかなかくせ者でして(笑)、実際は編曲ものと何ら変わらないというのが実態です。というのもBWV995は、自筆譜のタイトルに「リュートのための・・・」と書いてありますので、確かにリュート曲なんでしょうけど、BWV1000を除いて、その他は書法的にいわゆるリュートのための作品ではなさそうです。どうもある種の鍵盤楽器のために書かれたようです。(なおBWV1000は、タブラチュアで残されており、これはバッハの自筆ではありません)

BWV1006aは結構リュートっぽいですし、リュートのために書かれたというのがもう定説みたいになってますが、日本の武蔵野音大にある自筆譜の表紙がないので、ひょっとしたらとんでもない楽器が指定されているのかも知れません。

バロック音楽講座

2007年09月04日 11時59分00秒 | 音楽系
12月1日に第1回が始まるくわな市民大学市民学科「バロック音楽の旅」講座、申し込み順調です。定員は30人程度としておいたんですが、現在すでに少し上回っています。会場的には30人を超えても大丈夫ですので、今のところ全員参加できるようにする予定でいます。桑名市民以外の方も参加可能ですので、関心のある方はぜひどうぞ。詳しくはHPを。

あと、これから桑名市内の小中学生にも働きかけようかと思っています。やはり若い世代にもぜひ聴いて頂きたいですからね。こうしたちっぽけな講座がきっかけで、次を担うピリオド楽器奏者が出ないとも限りません。なんて、ちょっと大げさですが。(笑)ま、とにかく老若男女に聴いてほしいなって思う訳です。

この「バロック音楽の旅」講座、ヨーロッパの旅行ガイドと誤解されると困るんですが(笑)、どうして旅ということばを使ったかというと、ヨーロッパ各地のいろんな時代の音楽を聴いていくからでして、それはまさしく水平的な旅、また時空を超えた旅でもあるからです。

バロック音楽を演奏するのは昔の様式の楽器とオリジナルの楽譜を使いますが、これはもう現在ではいちいち触れることはあまりないようです。私の講座では、最初にそのことを少し触れるつもりですが、あとは特に強調したりすることはしないつもりです。鈴木雅明さん率いるバッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートでも「ピリオド楽器による」とか「古楽器による」バッハカンタータ演奏などといった看板はあげてませんですね。それだけピリオド楽器によるバロック音楽の演奏が普通になったわけです。

ヨーロッパではバロック音楽のコンサートの99%以上はピリオド楽器でしょう。今度来日するイ・ムジチは貴重な過去の生き残り的例外!?(笑)。ピリオド楽器使用という点では日本はまだ少し遅れていているのかも知れませんが、それでもピリオド楽器使用が普通になりつつあります。時折まだ「古楽器による・・・」って強調したコンサートはあるにはありますが。(笑)

オルガンコンサート

2007年09月03日 11時44分16秒 | 音楽系
バーゼルにいたときに一緒に勉強していたオルガンのKさんが名古屋でコンサートをするというので聴きに行ってきました。場所は名古屋・栄の愛知県芸術劇場コンサートホールです。このホールはもうそこそこ前に出来たホールで、なかなか立派なホールです。オルガンも設置されていますが、実はまだ聴いたことがなくてちょうどいい機会でした。

会場へは地下鉄から直につながっていけるようになっていまして、なんてこんなことをいうのは古い人間ですね。昔の栄の地下街はずいぶん変わりました。学生時代によく歩いた栄地下街の部分ももちろん残っていますが、新たにいくつかの道筋ができて、この芸術劇場にいくルートも新しく作られたものです。若い頃は目をつぶっていても栄の地下街が歩けたくらいですが、最近は目をよく見開いていてもどこにいるのか迷うくらいです。

会場に着くと、入場客がぞくぞく入ってきます。このコンサートは愛知県文化振興事業団の企画によるものですが、こういう立派なホールで演奏できるKさんはうらやましい限りです。生リュートであれだけの大きなホールで演奏する機会はないでしょうけど、1回くらいはやってみたいもんです。でもオルガンのフルストップでもまだ音圧を感じないような巨大な空間ではリュートを弾いても外で弾いているのとほとんど同じでしょうね。

Kさんの演奏は絶好調で共演のトランペットのSさんの好演と相まってすばらしいコンサートでした。プログラムは、前半はバロック音楽、後半は近代の音楽でしたが、いわゆるクラシック音楽ばかりでポップス系の音楽はまったくないですが、楽しむことができる曲ばかりでした。特にKさん自作の「ふるさとによる幻想曲」(「ふるさと」はあの有名な文部省唱歌です)はまるでオーケストラのようにオルガンが響き、すごくいい曲でした。客層は耳に入ってくる会話などからバロック音楽好きではなく一般のクラシック音楽愛好家の方たちのような感じでしたが、みなさんきっとKさんの演奏に酔いしれていたことでしょうね。

終演後はKさんと演奏助手(オルガンは必ず演奏助手が必要です)の方といっしょに名古屋名物のきしめんをご一緒していただき、懐かしい「昔話」に花が咲きました。