リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

製作家を訪ねる

2023年01月21日 20時42分51秒 | 音楽系
リュートの調整をお願いするために稲城市在住の製作家、奥清秀さんの工房に行ってきました。

工房を訪れるのはこれで二回目ですが、東名高速の横浜青葉で降りるので横浜在住だとずっと思っていましたが、メールに書かれていた住所をよく見てみましたら稲城市在住でした。しかも稲城市はイナギシと読み東京都なんですね。しっ知りませんでした。

調整作業していただく楽器の説明をしたあと、工房に置いてあったバロック・リュートを少し弾かせていただきました。ガット弦が張ってありましたが、バス弦はアキラのヴェニス、1コースは0.38mmとのことでした。さすがにこのゲージだと1コースはちょっとテンション不足かなという感じでした。

あと自作のケースも見せて頂きました。既存のケースに満足できないので、自分で作るようになったとのことですが、なかなかいいケースです。持った時のバランスもいいし、強度もしっかりしています。興味深いのは背負えるように特別の金具を装着してストラップが付いていることです。最近はギターでもチェロでもケースごと背負うことが多いので、リュートもそういうことができるととても便利です。実際に背負ってみましたが、ケースの重量がぐっと軽減した感じがしました。

あとついでに私のバロック・リュートの13,14フレットの張りフレットをつけてほしいとお話をしましたら、張りフレット用の細い木を頂けるということでしたのでありがたく頂戴してきました。

調整は1カ月くらいみてほしいとのことでしたので、次にまた東京方面に行くときに受け取ってくる予定です。

wena 3 は今

2023年01月20日 13時51分55秒 | 日々のこと
当ブログも永らく続けてきて沢山の記事を書いてきました。多くは1回読んだあと再読されることはないようなたわいもない中身ですが、いくつかは結構何度も再読されているものもあります。

そんな中で少し特異な記事が再読回数のトップクラスに入っています。それはソニーのwena3に関するエントリーです。数回書いた程度なのですが、なぜなんでしょうねぇ。というようなことを昨年の春頃に書きましたが、いまだにその現象が続いています。

wena3というのはリストバンド型のスマートウォッチです。といっても時計はついておらず、自分の使っている時計を載せることができます。電子マネーにも対応していますし、お値段もアップルウォッチよりかなり安いです。

スペック的には理想的なんですが、これがくせ者でした。アプリの不具合、本体の不具合でBluetooth接続に問題あり、マニュアルの書き方も間違っている、などソニー製品とは思えないような作りで、それらの顛末を記事にしました。ちょうど2年くらいことです。一番最初のエントリーは2020年12月25日です。

これってひょっとして根本的な問題点がいまだに解決されないまま販売されているのでしょうか。購入したユーザーが困ってしまってネットで解決策を検索したら当ブログの記事がヒットした、という感じなんだと思います。

今どうなっているのかを調べるのはメンドクサイのでしませんけど、知り合いのお医者さんもwena3使いでしたが、最近になって別のに買い換えているところを見るとやはり問題点は継続しているのかも。

マチネの終わりに

2023年01月19日 14時14分02秒 | 音楽系
6,7年前に平野啓一郎作の「マチネの終わりに」という小説を買ったんですが、途中まで読んでそのままになり、また読もうかと思ったら本がどこかに行ってしまいました。(^^;)

仕方がないので文庫本を買ってこれもしばらくは積ん読でしたが、お正月のエンタテイメントで読んでみました。氏の小説は初めてですが、装飾的な華麗な文体がちょっと面倒くさいなとは思いましたが、世界の政治情勢や音楽業界の内情、ギター音楽を巧みに織り込んだストーリーの展開はリアリティと厚みがあり楽しめました。

作品の中で架空の映画音楽が出てくるのですが、「幸福の硬貨」と題されたその音楽にとても興味がわきました。その曲は小説の中で「静かなアルペジオの小曲」と表現されていますがどんな曲がいいのでしょうか。

2019年に映画化もされているのですでに「幸福の硬貨」という名の曲はあるはずで、調べてみましたら2種類の曲がありました。ひとつは小説発表後に作曲されたもの(林そのか作曲)、もうひとつは映画化された際に作曲されたもの(菅野祐悟作曲)です。

でもいずれも静かな感じではあっても「アルペジオの小曲」ではない感じですねぇ。アルペジオの曲ですから、例えば禁じられた遊びとかディア・ハンターの曲みたいな曲建て付けの曲だと思うんですけど。確かに2曲とも和音をジャンと弾かないでアルペジオで弾くことはできるのですが、それは「アルペジオで弾く曲」であって「アルペジオの曲」ではないでしょう。時間があったら「第三の」幸福の硬貨を作ってみようかしら。いまさらみたいな感じもしますが。(笑)ちなみに発表されている2曲のうち、映画の挿入音楽の方がギター曲としては成功していると思います。もうひとつの方はキーボードライクな作りです。

You Tubeにはこれらのヘッタクソな(失礼)演奏にあふれていますが、ひとつだけとてもいい演奏がありました。立場上人様の演奏についてあれこれいうのは控えていますが、私がやっている音楽とは遠く離れた音楽ではあるので、少しナイショで言わせてもらうと、・・・・で・・・ですけど、「イ」で始まる女性ギタリスト・・・、レベチ!すば・・・・。同じ名字の男性ギタリストの演奏・・・こっちはだいぶJR東日本日光線日光駅の手前・・・です。

追悼加賀乙彦氏(1929-2023)

2023年01月18日 17時36分39秒 | 日々のこと
作家の加賀乙彦氏がお亡くなりになりました。なんて文学に詳しいみたいなことをいっていますが、当ブログで昨年書きましたように、私は昨年氏のファンになったばかりです。昨年ひょんなこと※から画家の野田弘志氏の展覧会を姫路市立美術館で拝見する機会があり、そのなかに加賀氏の新聞連載小説「湿原」の挿画がありました。野田氏は超リアリズムの作家ですが、氏が描く小説の世界にすっかり魅せられてしまい、是非「湿原」を読んでみたいと思いました。

幸いなことにアマゾンの中古本で上下2冊からなる本作品を安価で購入できました。1985年に出版されたその2冊は長く倉庫に眠っていたためなのか、まるで新品みたいでした。

読んでみますとその内容の重厚なこと、そして決してエンターテイメント性も置き去りにされていないことなど、久しぶりにいい作品に出会ったと思いました。もっともそれは私が文学に疎いので今頃分かったということで、世間的にはとても有名な方です。でも氏がご存命のときにたとえ1作でも読めたということは、実際は大して意味のないことなんでしょうけど、なんか嬉しかったです。

まだ氏のいい作品は沢山ありますので、また読んでみようかと思います。氏の安らかな眠りを心からお祈り申し上げます。

※ひょんなこと
ある夏の日姫路城を見た帰り道、突然のゲリラ豪雨。雨宿りのために走っていった先が姫路市立美術館でした。ゲリラ豪雨のおかげですね。(笑)

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(30)最終回

2023年01月17日 15時50分58秒 | 音楽系
このシリーズの最後に(少し間があいた最後になってしまいましたが)ダブル・フレットについて触れてみます。
トマス・メイスが著した理論書「音楽の記念碑(1676)」の70ページにダブル・フレットに関する記述があります。

「シングル・フレットがベスト」という則註がついていて、記述が始まります。

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最近試してみましたが一本の弦でリュートのフレットを巻く方がずっとよいということが分かりました。その理由は早く、短い弦で巻けるだけでなく、押さえたところから出る音がより鮮明になり、そしてそれは当然そうあるべきであり・・・(以下略)
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はい、メイスもこのように仰っていますが、私としてもシングルフレット一択です。最近どなたの仰ることを鵜呑みにしたか知りませんがダブルフレットを勧めてくる方がいます。そんな時間があったら楽譜の読み方を実践したり曲の練習をした方がいいです。またよくわからないアマチュアの方にそういうことをいうプロの方ももっとお言葉に責任を持つべきです。

とはいうものの、古い時代にはフレットがサワリ音(弦のビビリ音)を出すように調整されたリュート(バズ・リュート)はあったようなので、ずっと前に試したことがありましたが、再度試してみました。

使ったフレットは0.95mmと0.90mm。それらを次のように巻いて音を出してみました。

1)同じゲージを2本
2)0.95をナット側、0.90をブリッジ側
3)0.90をナット側、0.95をブリッジ側

そして2本はできるだけ接近させました。

結果は:
1)はあまりびびりません。2)はびびりません。3)はびびります。

綺麗に楽音としてびびる(日本の琵琶のサワリ音みたいな感じ)ように調整するのはとても難しいです。それに開放弦をどう調整するかという問題もあります。少なくとも今日ほとんどの方が演奏するルネサンス・リュート、バロック・リュートなどの楽器には無用の音です。薩摩琵琶みたいにサワリ音で弾くヴァイスやバッハはキワモノです。

バズサウンドは、一般的に右指で弾くときに弦にあたるビビという音のことですが、(ハープでは結構問題になるようです)一定時間、量以上になるとバズ、ビビリとして認識されます。また、特にバロックリュートみたいに弦の多い楽器で、弦を結んである部分とかペグボックスで弦が重なり合っている所から出てくるビビリ音も英語でいうとバズです。最近はやっている「バズる」もバズ(buzz)から来ているようです。

バルトーク弦楽四重奏曲第3番

2023年01月16日 20時56分01秒 | 音楽系
新しく導入したDACでナクソス・ミュージック・ライブラリを聴いています。



バルトークの弦楽四重奏曲のいい演奏を見つけました。



ラガッツェ四重奏団のバルトーク弦楽四重奏アルバムです。ラガッツェという名前からすると女性の四重奏団のようですが、CDブックレット見ると果たして女性ばかりでした。この四重奏団の演奏で驚いたことは音程が正確無比でバルトークが意図したハーモニーがきっちりと表現されているところです。よく聴いているアルバン・ベルク四重奏団の演奏はなんかピントがよく合っていない感じのサウンドで気になっていましたが、この演奏を聴いてこの曲の真の姿を見た感じがします。

ナクソス・ミュージック・ライブラリで他の楽団の演奏を聴いてもどうも音程があぶなっかしいものばかりで、このラガッツェ四重奏団はとびっきりクリアです。この作品ではないのですが、バルトークが自作自演でがピアノ伴奏したヴァイオリン曲がナクソスにあるので聴いてみましたが、戦前のスタイルなのでヴァイオリン(ヨーゼフ・シゲティ)はあまり音程を大切にしている感じではありません。バルトーク自身も伴奏しながら、こんなもんだろうと思っていたかも知れません。ですから弦楽四重奏の当時の演奏についても、バルトーク自身は自分が書いたハーモニーを正確な音程で聴いていなかった可能性があります。それどころか現代に至るまでこの曲の真の姿に接することはあまりなかったのかもしれません。

人気の高い第4番とともにとても斬新なハーモニーのこの曲では、ハーモニーが理解しづらいので少々狂っていてもどっちみちわからん、というような感じだったかも知れません。ちなみに第4番はなぜかナクソスで聴けないので、iTunesで購入しました。これら2枚のアルバムで1番~6番まで全曲聴くことができます。

私が初めてバルトークの3番、4番を聴いたのは高校2年生のときで、レコード屋さんにたまたま45回転のLPアルバムがあったので買ってみたらそれがジュリアード・弦楽四重奏団によるバルトーク3番、4番でした。(笑)



聴いて見たらそれは衝撃的な音楽でした。柴田南雄氏による詳細な楽曲説明も詳細すぎてよくわからないものの読みふけっていました。それ以降はたまに聴く程度ですが、一応カーステレオのUSBアルバムにもちゃんと入っています。(アルバン・ベルク四重奏団の方です)早速ラガッツェの演奏も追加しました。



バロック音楽の旅15第5回コンサート

2023年01月15日 22時21分53秒 | 音楽系
今日はバロック音楽の旅15講座の第5回目、バロック・チェロの高橋弘治さんのコンサートです。



今年から3年かけてバッハの無伴奏チェロ組曲前6曲を紹介していく計画の第1年目になります。今回は組曲第2番と第4番です。今日は天気予報では寒気団が南下してきて全国的に寒くなるということでしたが、名古屋地方はあまり気温が下がらないという予報でした。実際とても暖かくて会場は暖房する必要がありませんでした。1月のこの時期に暖房なしで行けたのは初めてでした。

バッハの2曲以外に、ダッラバーコとグラツィアーニの無伴奏作品も演奏して頂きました。本年度の講座受講申込者は60数名でしたが、いつもと異なるのは出席率がとても高いことです。今回も9割くらいの方に参加して頂き、会場は熱気につつまれていました。髙橋さんの名演と相まって、会場が熱くなったのも暖房が不必要だった原因かもしれません。

来年度は組曲の第3番と第5番を演奏して頂く予定です。

本年度の講座もあと1回を残すのみとなりました。第6回講座は2月19日、ソプラノの森川郁子さんをお迎えする予定です。第6回のみの参加も可能ですので、興味のある方はぜひお越し下さい。

楽譜の読み方、バーチャル楽器を頭の中に作る(6)最終回

2023年01月14日 19時39分44秒 | 音楽系
そこまでできるようになって、初めて楽器を持って弾いてみるのです。頭の中で作り上げた音楽はリアルな楽器だとそうは理想的に指運びができないところもあるはずです。でも楽器を使わずに作り上げた音楽は、リアルな楽器という制約を離れた表現ですから、リアル楽器ではそれを目指して曲を仕上げることができます。これこそ真にあなたが求めている音楽だという言うべきです。

この様な方法で読譜すれば初見演奏も確実に出来、初見が効くようになればより沢山の楽曲に触れることができるので上達も早くなります。暗譜も確実に出来、記憶もずっと長続きします。私自身は練習のとき以外は暗譜で弾きませんが、40数年前ギターを弾いていた時代は本番でも暗譜で弾いていました。1974年以来ずっとギターは弾いていませんが、その頃覚えた曲の何曲かは今でも覚えていて弾くことができます。

このバーチャル楽器、構築が難しそうにも思えますが、例えば将棋の世界で将棋盤を使わないで3、5、金とか8、8、飛車なんてお互いに言い合って進めていく方法がありますよね。脳内将棋なんて呼ばれているそうです。これってバリバリのプロ棋士だけが出来ることではなくて、大学の将棋部員レベルでも出来ることです。今なら小学生レベルでも出来るかも知れません。全国にできる人は一杯いると思います。そろばんの暗算でも3桁か4桁レベルの人ならやはり全国にごまんといます。脳内そろばんですね。

バーチャル楽器もいわば脳内楽器です。これが出来る人が全国、全世界に沢山いても別に不思議はありません。バーチャル楽器(脳内楽器)構築は始まりにすぎません。音楽芸術はそこを入り口にしてまだずっと先にあります。

楽譜の読み方、バーチャル楽器を頭の中に作る(5)

2023年01月13日 11時58分15秒 | 音楽系
バーチャル楽器というのはどういうものを頭のなかで再現すればいいのでしょうかというのは連載(3)で示しました。誰かが弾いている映像そのものイメージとか、自分から見たフレットと弦の全てのイメージなのか、そのいずれでもありません。

もう少し詳しく言うと、ことばではとても説明しにくいのですが、左手ポジションは押さえているところのみのイメージ、各指はそれぞれの指を使うという「指令」のみになります。そこに出しているであろう音を結びつけるのです。すでに書いたように決して、リュートの沢山の弦をイメージして、自分が押さえている指の形もイメージするようなものではありません。必要なものだけをイメージする感じで、例えるなら思いっきりデータを圧縮して必要な部分だけ残した映像という感じでしょうか。決してYou Tubeの映像のようなものではありません。

タブの音符が楽器のポジション、音と結びつくようになれば、初めて見たタブを楽器を持たないで曲をイメージし、そこで仕上げ、そこから暗譜をするというところまでできるようになります。タブの場合はそもそも楽譜に弦のどのフレットを押さえるのが書いてありますので、五線譜より一手間すくないので楽です。でも最終的なイメージや音は同じものです。

楽譜の読み方、バーチャル楽器頭の中に作る(4)

2023年01月12日 15時48分25秒 | 音楽系
絶対音高でイメージなんて、絶対音感がないので出来ないと仰るかも知れませんが、ここで必要なのは相対音感であって絶対音感は必要ありません。前回の3)の絶対音高で、というのは一度楽器の音を聴いて覚え、そのあとバーチャル楽器で鳴らすということです。ヘ長調の曲がバーチャル楽器で変ホ長調になっているのは変でしょ?音の高さがずれるのであれば何回も聞いて修正するのです。

さて練習を進めていくステップです。

前提:
楽譜(タブ、または五線譜)のシステムをきちんと理解していること。
楽器の基礎技術を身につけている。まだこれからの人は身につけていきながらでも可能です。

1)楽譜を見て、リアル楽器を弾いてみる(普通の練習です)

2)楽譜を見て、リアル楽器を弾かないで音をイメージしていく

3)2)の音のイメージに加えて左手指のイメージを連動させる

4)3)に加え、右手指のイメージを加える

まずここまで何度も順に繰り返してできるようにします。口でぶつぶつメロディを歌ったりしないように。1)のときも2)以下のときも然るべきテンポで弾き(イメージし)ます。途中で止めたりしないで、音楽を流していくことが重要です。

ここまでできるようになったら曲を楽譜を見ないでバーチャルで弾いてみましょう。これは暗譜の練習です。ここで重要なのは、2)~4)をきちんと加えることです。つまりリアル楽器は弾いていませんが、音のイメージ、指のイメージが付いてこないといけません。テンポもリアルタイムで。暗記するのは指のイメージと音です。できるようになったら、今度はリアル楽器で暗譜演奏です。こういう暗譜が本当の暗譜だと思います。

バーチャル楽器がすでに作られている場合は上記2)~4)は不要になります。1)で弾いているときに同時に2)~4)も行っているので、直接暗譜に移行できます。イメージでの記憶ということとそもそもデータ量が少ないということから、こういう方法での暗譜は忘れにくいのです。

そしてもうひとつ重要なこと。暗譜したらその曲を楽器を弾かずにタブで書いてみることです。きちんと暗譜できていたら、頭の中にあるその曲をタブに書けるはずです。(ギターであれば五線譜を書きます)もし書けなければきちんと暗譜できていないということです。

一旦暗譜したら、何度でもバーチャルで弾いてみる、そしてリアルで弾いてみることで表現を磨いていきましょう。