Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

ワヤン・リステリックの世界

2008年12月15日 | 大学
 バリに留学経験のある私の学生や卒業生が中心になって3月にガムランの自主公演を行うのだが、この土曜日に公演に使う映像のワヤンの撮影が行われた。ワヤンといっても上演の一部をとるわけではなく、映像は舞台で演奏される音楽の背景に使われるために、それぞれ工夫をこらして撮影が行われる。
 まず普段使っている電球は用いず、照明用の強力なライトが人形遣いの後ろ側からあてられる。さらに影絵の舞台には、切り絵やセロファンなのでまさに「影絵」の世界が展開される。ある意味、子どもの影絵遊びの世界にも見えてしまう。
 1980年代に留学した私にとって、正直、こうした工夫には違和感がある。真っ白いスクリーンの中に伝統的な影絵人形と語りだけで森羅万象を表現するのが本来のワヤンの世界であって、切り絵のような小道具は「邪道」である。少なくても私の師匠はこうした演出をワヤンとは認めなかっただろう。
 しかし現代のバリのワヤンは大きく変わった。電気を使ったワヤンを意味する「ワヤン・リステリック」が創作ワヤンでは一般的になり、次々に創意工夫が施された新しいワヤンが登場してきているし、バリの人々もそうした新しさを受容するようになった。そんな時代に留学した私の教え子たちにとって、新たな工夫はもはや驚くべきことではないのだろう。
 私は正直なところ、当分の間、こうしたワヤンを上演することはないだろう。新しい試みは認めた上で、私はやはり影絵人形と白いスクリーンの世界だけで表現できるものをまだまだ追求していきたいからだ。勉強することはまだまだあるのだから。