社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「在宅ケアからみた死生観-死と向き合う場としての在宅ー」前野宏

2010-10-03 20:24:51 | 医学
『緩和ケア』Vol.20 No.5 SEP.2010

在宅緩和ケア専門のクリニックに勤務している医師の論文。
自身の経験を踏まえ、在宅で死を迎える患者、家族の死との向き合い方や医療従事者の姿勢について述べている。

学術論文ではなく、実践報告という印象が強く、広く多くの人が理解できる内容になっていると思われる。

引用
・ギリシャ語で「時間」を表す言葉が2つある。それは「クロノス」と「カイロス」である。「クロノス」は一般的な時間を意味する。「カイロス」は人間の内的な時間、長さではなく、意味を持った時という意味である。
⇒上記を踏まえ、近代医療は治癒しない状況であっても長く生きるために治療をし続ける…「クロノス」。一方で、病気が治らないのであれば、延命治療よりも「今」という時を大切にする…「カイロス」。


本論文では、いくつかの事例を紹介し、「患者が死と向き合い、死の準備をするのに自宅に勝る場はないであろう」と述べている。気持ちの整理、思い出の品の整理、お金の整理などなど、そういった作業は死と向き合うことを後押しし、そして伴走もするだろう。そういった意味で、筆者の見解にはとても共感できた。
しかし家族にとっても、「患者の死と向き合うためには、在宅という場はふさわしい」という見解には、素直に共感することができない。それは症状が安定せず、患者本人の精神状態の変動が著しい場合、家族にとっては、患者亡きあと「思い出したくない空間」にもなりえる。それは、疼痛管理や介護体制を十分に整備することで、起こらない事態かもしれない。しかしやはり未だに、「急に退院しろと言われた」「何がなんだかよくわからないまま、日々を消化している」と思う患者・家族はいるであろう。

在宅は「居心地のよい場所」であることは間違いない。しかし万人にとってそうなのか、少し斜めの角度からも「在宅緩和ケア」を眺めることも必要だと考える。


緩和ケア 2010年 09月号 [雑誌]

青海社

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