パンの皮/世界の民話16 アルバニア・クロアチア/小澤俊夫・編 飯豊道男生・訳/ぎょうせい/1999年新装版
悪魔が出てくるクロアチアの昔話。
悪魔も昔話では道化役ですが、ここでは福の神です。
貧しい男がわずか一枚のパンの皮をもって、薪をとりにでかけ、一息ついてパンの皮を食べようとすると影も形もありません。
若い悪魔がやってきて、食べてしまったのです。
若い悪魔が手柄話にしようと、悪魔の爺さんにこのことを話すと、爺さんは、その貧しい男のところに行って一年間奉公してパンの皮のぶんを返せといいます。
そこで、若い悪魔は貧しい男のところへでかけ、不毛の土地を鋤きます。するとその年は雨が多く、砂地でこれまでにない獲り入れができます。
小麦を脱穀し、やることがなくなった悪魔は、伯爵のところにいき、麦を脱穀するので背中にしょえるだけのものをくれるよういいます。
弱そうできゃしゃな悪魔をみて、たいしたものはしょえないだろうと承知した伯爵。
ところが悪魔は、村中の寝床の敷布を全部あつめ、縫い合わせるように貧しい男にいいます。
村中の敷布ですから、その年伯爵のところで獲れた麦が全部入ってしまいます。
大きな荷物を背中に背負いないだろうと思うと、そこは昔話で、軽々と歩き出します。
びっくりした伯爵は、荒牛、荒馬、荒豚を次々に突っ込ませますが、悪魔はこれもかるがると肩に放り上げます。
貧しい男にとっては、福の神、伯爵にとってはまさしく悪魔でした。
なぜ悪魔の爺さんが、一年間奉公してパンの皮の分を返せといったかの理由はありません。
迷惑をかけたのを反省するようにさせたのか、それとも貧しい男に同情したのかも不明です。
これが昔話でしょうか。