新潟のむかし話/新潟県小学校図書館協議会編/日本標準/1976年
徳のあるおぼうさんと、サルのしっとりとした話。こんな昔話もあります。
お坊さんひとりの古い由緒の寺に、いつのころからか2ひきのサルがやってきて、お坊さんの読む経を、熱心に聞いているようになった。雨の日も風の日も休まず100日あまり。
不思議に思ったお坊さんがわけを聞くと、経を書いてくれというような身振り。お坊さんが「望み通り経を書いてしんぜよう」というと、五、六日すぎたある日、何百びきものサルが、木の皮を寺の前に置いていきました。
お坊さんは木の皮をすいて紙を作り、よい日を選んで経を書きはじめた。経を書きはじめると、サルは、前にもまして、熱心にお寺にやってくるようになり、さらに山イモやカキ、ナシなどの実をたくさん持ってきて、寺の前においていく。
坊さんが第五巻まで書き終わったときのこと、どうしたことか、毎日、休まずにかよっていたサルのすがたがみえなくなった。何日もすがたが見えないのを心配したお坊さんが、あちこちを探したところ、土のなかに頭をさしこんで、うずくまって死んでいる二ひきのサルを見つけました。サルを丁寧にほおむり、経を読み、サルの後生を弔った坊さんは、まだ書き終わらない経を、寺の柱を削ってあなをほり、その中に、大切におさめました。
それから四十年後、都から新しく国司(いまの県知事)がやってきて、まだ書き終わっていないお経がないか尋ねます。坊さんたちがだれも答えられずにいると、八十をすぎた立派な坊さんが出てきて、サルの話を、国司に話します。そしてこれまで書き上げたお経を国司に差し出しました。国司夫婦は、お経を書き終えていただくため、人間としてこの世に生まれてきた、そのサルは、夫婦の前身だという。これからも、このお経をさいごまで書き続けるよう、お坊さんに頼みます。
お坊さんは心に感じ、国司の願いをきき、経の書き写しを熱心にはじめます。そして出来上がった経を完成させ、国司にさしあげます。そのご、坊さんはりっぱな生き方をし、国司も越後の国司として、しあわせな一生をおくります。