悲しむべきこと/星新一/ものがたり十二か月 ふゆ物語/偕成社/2008年
星新一さんのオチは、いつもながら秀逸です。クリスマスなのでサンタにまつわる話。
大きな邸宅に住むN氏のところにやってきたサンタクロース。N氏は、「よくいらっしゃいました。ごくろうさまです。しかし、わが家はけっこうです。小さい子どものいることはいるのですが、うちはまあ、お金持ちのほう。どうせなら、貧しく恵まれぬ子どものいる家をおたずねください。」といいますが、このサンタクロースは、拳銃らしきものをむけたのです。
N氏が、なんで強盗まがいのことをするのか、わけをたずねると、
「じつは、ご存じのように、わしはむかしからクリスマスの夜、かわいそうなこどもたちに、ずっとおくりものをとどけつづけてきた。みな喜んでくれている。」「そのためには金のかかることを、理解してもらわねばならんよ。喜んでくれるのはいいが、金のことはだれも考えてくれない。わしのたくわえは、とっくのむかしになくなった。つぎには家具や装飾品を処分して、おくりものを買う金とした。」「それから借金だ。わしの家を抵当にし、金を作った。かえすあてもなく利息がたまってしまった。もうどこからも借りられないし、返済を強硬にせまられている。」「もはや万策つきた。あしたになると、わしは家から立ち退かなけばならぬ。トナカイたちは肉屋に持っていかれれる。背に腹はかえられない。さあ金をだせ。」
義憤を感じたかどうか、N氏は、サンタクロスにアドバイスします。
「だれもかれも、あなたをだしに商品を売りまくっている。人のいい点につけ込み、無断で肖像権を使っている。本来なら、あなたのために積み立てておくべきものです。それを正当にとるだけで、かなりのお金がはいります。」「裁判にかければいいのですが、それでは急場にまにあいません、あなたをだしにいちばんもうけたところから取るべきです。Gデパートがいい。あそこは最大のデパートで、このクリスマス・セールでは大変な売り上げを得ました。」「Gデパートの金庫にはいれば、大金を手にすることができます。そうしなさい。遠慮することはありません。あなたは報酬として、当然それをもらう権利があるのです。」
そして、Gデパートの地図を書き、金庫を破る道具をもっていることを確認し、激励しました。
サンタクロースは忍び込むのがうまいし、にげるときは、道路が閉鎖されても心配ないだろうとおくりだしたN氏。
ところがN氏は自分の金がおしいだけでなく、とんでもない策略がありました。それはサンタクロースが金庫破りに成功し、Gデパートが没落してくれれば、じぶんの経営するデパートが、かわって一位にのしあがれるだろうというものでした。