新編世界むかし話集10/山室静・編著/文元社/2004年
舞台はサモア島。
ある夫婦に、十人の息子と、ジーナという女の子がいました。十人の一番上の息子は十、二番目は九、そして末っ子は一という名前。ところが ある出来事から、夫婦は、子どもたちを一から数えることにしました。それは・・。
子どもたち全員でやり投げをして遊んでいるときに、一の投げた槍がいちばん遠くまでとんで、ワニの穴に落ちました。ジーナが槍をとりもどそうとすると、ジーナはワニの穴に閉じ込められてしまいます。ジーナは、十の兄さんに、家に戻ったら、穴から出られないでいることを両親には話してくれるようお願いします。十は両親からジーナはどうしたかきかれると、「あの子は、九のボ-トに乗って、じきかえってくるだろ。」と、答えます。
九がワニのところへいって、「ジーナ、どうしたんだ?でておいでよ、ぼくは家へ帰るんだから」というと、ジーナは答えました。「ああ、九兄さん、家に帰ったら、両親にいってよ。わたしがワニにつかまって、穴からでられないでいるって!」。九は両親から妹のことを聞かれると、「じきに、八のボ-トに乗って、かえってくるよ。と、答えます。
ほかの兄さんも同じことでしたが、最後の一は、すぐに決心して、穴の前にはえていたアダンの木に登ると、空飛ぶ犬のような声を出しました。そして、アダンの実をどっさりちぎると、ワニの穴の入り口に投げ落とします。ジーナはその実がパラパラ落ちる音を聞くと、暑くてたまらないから、穴をちょっとだけあけてくれるようワニに言いました。つぎに、ジーナはアダンの実で、首飾りをこしらえてあげるから外へ出してくれるようワニに言います。ワニは、ジーナが逃げることを警戒し、足を縄で縛りました。実を集めるため、ジーナが外へ出ると、すぐに一がやってきて縄をほどくと、それをアダンの木に結びつけ、逃げ出しました。
ジーナが帰ってこないのを見て、ワニが縄を引っ張ると、アダンの葉が、みんなで「おお、おお、オホホ!」と叫びました。どうも外には大勢の人がいるらしいぞと、さらにワニが力いっぱい縄を引っ張ると、アダンの木はたおれてしまい、たおれたひょうしに枝が穴につきさって、ワニを殺してしまったのです。
一が、家に帰って子細を話すと、両親は、「わかった。おまえたちは妹のジーナを愛していないんだ。どうもおれたちが、子どもたちを十から数えはじめたのはまずかったぞ。これからは、一から数えはじめることにする」と、ほかの子どもたちに言い渡したのでした。
アダンの木のことを、はじめて知りました。一から十というのは、名前でなく、数え方だったようです。