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小さな赤いめんどり/アリソン・アトリー・作 神宮輝夫・訳 小池アミイゴ・絵/こぐま社/2017年
1969年に出版(大日本図書)された訳に若干の修正を行い、挿絵はすべて新しくなっているとありました。
ひとりぼっちで暮らすおばあさんがいました。親類の人や、ふるい知り合いは、みんなおばあさんより 先に死んでいました。おばあさんは気持ちのしっかりした人で、体が弱いことにも、貧乏にも負けず、立派にひとりで暮らし、通りかかる人には、いつもにっこりと笑いかけ、庭の草花を分けてやりました。
外にいると、通りかかる人と、話ができましたが、冬、暖炉のそばに引っ越しすると、話し相手がほしくなります。
ある晩、おばあさんは、また、話し相手が欲しいと、ひとりごとをいいました。すると、ドアをたたく、小さな音が聞こえてきました。音がいつまでもつづくので、おばあさんは立ち上がってドアをほそめにあけてみました。足元で、コッコという声がして、かがんでよく見ると、小さなめんどりが、あがりだんの上に、ちぢこまっていました。
おばあさんが小さなめんどりに夕ごはんをあげると、めんどりは、もう夢中になって食べました。それから、おばあさんは、めんどりに寝床を作ってあげました。
そのとき、ドアを乱暴にたたく音がして、でてみると「ちっぽけな赤いめんどりを、みなかったね?」と、ナイフを握った男がたっていました。
飼い主で、逃げ出しためんどりを探していたのです。男はめんどりを食べようとしていたのです。おばあさんが、ここにおいておくようにたのむと、真鍮のろうそくたてとひきかえに男はかえっていきました。ろうそくたては五十年もの間、部屋を明るくしてくれた、たったひとつの思い出でした。
翌朝、おばあさんがおきてみると、台所はきれいに掃除され、テーブルはいつでも朝ごはんが出せるようになっていて、水差しには、庭の泉の綺麗な水が、ちゃんとくんでありました。おまけにテーブルの上には卵がひとつ。昨日やってきたもとの主人は、毎晩逃げてばかりいて、たまごをうまないといっていたのですが。
「おまえは、そうだねえ、この世のふしぎ、ですよ!」と、よころんだおばあさんでしたが、それだけではありませんでした。小さなめんどりは、あっというまに、かたづけごとをし、パンをやいたり、ブリキのコップやスプーンをみがきました。
森を散歩したり、その途中で落ちている枯れ枝を集めるのも一緒です。
さらに縫物も、おばあさんよりも念入りで、どんどん縫物の仕事がまいこみます。おばあさんの財布は、お金でふくらみはじめ、暮らしは楽になりました。
ところが、もとの主人がやってきて、めんどりがとてもふとっていて、しあわせそうなことに気がつき、きゅうに、めんどりがほしくなりました。「買いもどしたい」という男に「売りたくない」と、おばあさんは断ります。
男は家の中をさがし、めんどりがかくれていた粉袋を強引にもっていってしまいます。
めんどりは、食べられそうになりますが、ポットのなかにあった小さな青い石をみつけ呑み込みました。青い石は、めんどりの声!でした。
声が出るようになっためんどりが、新しい声でさけぶと、その声は夜風にのってながれ、あたり五、六キロのおんどりやめんどりが、たちまち目をさましました。おんどりたちは、途中の農場のおんどりたちを、さそいながら男の家にかけつけると、鍵をつついてこわし、ガラスをわると、赤いめんどりのつなをほどきました。
小さな赤いめんどりは、真鍮のろうそくたてを、つばさのしたにかかえ、おばあさんの家まで、とんでかえりました。
おんどりたちは、すぐにひきあげず、台所を煤だらけにし、鍋や釜を翼でたたいて、ころがし落とすなど、できるだけ家の見えの中を、めちゃくちゃにしました。男がベッドからおきてくると、おんどりたちは男にとびかかり、くちばしでつついたりしました。男は二階にもどると、ふとんのなかにもぐりこんで、かんだかいおんどりの、さけび声を、がたがたふるえながらきいていました。家のなかが、しーんとしずかになると、ふたりは、こわごわ下におりていくと、そこはなにもかもめちゃくちゃ。めんどりは、わざわいのもと、あんなめんどりは、ぜんぜんねうちがないと、ふたりはいいあいます。
声をとりもどしためんどりは、おばあさんと、おたがいのことを話し合いました。クリスマスのパーテイや、結婚式、洗礼式のこと、小さな赤いめんどりは、妖精や魔女や、こびと、小鬼のことを話しました。小さな赤いめんどりは、こういうものたちぜんぶの女王さまだったのです。ふたりは、いっしょに暮らし、おばさんは百と一歳まで長生きし、おばあさんが死ぬと、赤いめんどりも、いなくなりました。
ひとりぼっちだったおばあさんが、不思議な力を持つ小さな赤いめんどりと暮らすようになる物語。人は、ひとりぼっちでは生きられない、そんなことが伝わってきます。
小さな赤いめんどりの出生の秘密、なにげない田舎の暮らしの様子も生き生きと描かれています。
アリソン・アトリー(1884-1976)が亡くなってから50年近くたっていますが、古さは全く感じません。