「ごくつぶし」と言われて 難病契機、子ども生きがい 「婚難の中で」「主夫になったら」
2018年2月1日 (木)配信共同通信社
「ごくつぶしか」。専業主夫のキャリア19年になる佐久間修一(さくま・しゅういち)(51)=東京都=が主夫に成り立ての頃、近所の人に言われた言葉だ。佐久間は「男が働くのが当たり前の時代だった。自分もそう思っていた」と語る。
主夫になる前はシステムエンジニアとして月120時間の残業をする「モーレツ社員」だった。1998年6月にグラフィックデザイナーの妻(43)と結婚。幸せの絶頂を迎えたはずだった。
夏に胸の痛みで病院に行くと、皮膚や心臓などの細胞が壊死(えし)する難病と診断された。症状は進行し、医師に「治らない」と言われた。肺の一部が壊死した上、暖かい場所にいるだけで皮膚に刺すような鋭い痛みが走った。通勤が困難になりやむを得ず秋に退職した。
佐久間は「病気がつらくて男が働けないなんて。まだ若い年下の妻に面倒を見てもらうのは妻の両親にも申し訳ない」と年末に離婚を切り出した。自殺するつもりだった。だが妻は佐久間の頭を殴り、泣きながら「家にいて。私が稼ぐから」と言ってくれた。専業主夫になる転換点だった。
ただ「ものすごい葛藤があった」と言う。朝起きて体調が良いときはスーツに着替えてネクタイを締め、皿洗いや掃除、洗濯をこなした。その姿で比較的スーパーがすいている午前中に買い物に行った。「人目を避けたかった。妻に頼まれて嫌々買い物をしているように見せたかった」
あるとき近所の年配の男性に「いつも家にいるが何をしているのか」と聞かれ「主婦のようなことをしている」と話すと、冷ややかに「ごくつぶしか」。返す言葉が見つからず笑うしかなかった。
自分の中で折り合いが付くまで3年かかった。妻の年収が120時間残業していた頃の自分の稼ぎを超えたのがきっかけだ。「無理して働こうと思うより、妻のバックアップに徹した方が家庭の効率が良い」と思った。覚悟を示すために金髪にした。「金髪なら働けないし、鏡で姿を見れば覚悟を思い出す」からだ。
気持ちが落ち着いてくると症状も次第に出なくなった。子どもがほしくなった。「妊娠と出産はキャリアに影響する」と言う妻を「妊娠、出産、母乳以外は全て俺がやる」と説得。2012年に長男悠(ゆう)(5)が生まれた。子育てに忙しい今の佐久間はこう言う。「悠が生きがいだ」(敬称略)
2018年2月1日 (木)配信共同通信社
「ごくつぶしか」。専業主夫のキャリア19年になる佐久間修一(さくま・しゅういち)(51)=東京都=が主夫に成り立ての頃、近所の人に言われた言葉だ。佐久間は「男が働くのが当たり前の時代だった。自分もそう思っていた」と語る。
主夫になる前はシステムエンジニアとして月120時間の残業をする「モーレツ社員」だった。1998年6月にグラフィックデザイナーの妻(43)と結婚。幸せの絶頂を迎えたはずだった。
夏に胸の痛みで病院に行くと、皮膚や心臓などの細胞が壊死(えし)する難病と診断された。症状は進行し、医師に「治らない」と言われた。肺の一部が壊死した上、暖かい場所にいるだけで皮膚に刺すような鋭い痛みが走った。通勤が困難になりやむを得ず秋に退職した。
佐久間は「病気がつらくて男が働けないなんて。まだ若い年下の妻に面倒を見てもらうのは妻の両親にも申し訳ない」と年末に離婚を切り出した。自殺するつもりだった。だが妻は佐久間の頭を殴り、泣きながら「家にいて。私が稼ぐから」と言ってくれた。専業主夫になる転換点だった。
ただ「ものすごい葛藤があった」と言う。朝起きて体調が良いときはスーツに着替えてネクタイを締め、皿洗いや掃除、洗濯をこなした。その姿で比較的スーパーがすいている午前中に買い物に行った。「人目を避けたかった。妻に頼まれて嫌々買い物をしているように見せたかった」
あるとき近所の年配の男性に「いつも家にいるが何をしているのか」と聞かれ「主婦のようなことをしている」と話すと、冷ややかに「ごくつぶしか」。返す言葉が見つからず笑うしかなかった。
自分の中で折り合いが付くまで3年かかった。妻の年収が120時間残業していた頃の自分の稼ぎを超えたのがきっかけだ。「無理して働こうと思うより、妻のバックアップに徹した方が家庭の効率が良い」と思った。覚悟を示すために金髪にした。「金髪なら働けないし、鏡で姿を見れば覚悟を思い出す」からだ。
気持ちが落ち着いてくると症状も次第に出なくなった。子どもがほしくなった。「妊娠と出産はキャリアに影響する」と言う妻を「妊娠、出産、母乳以外は全て俺がやる」と説得。2012年に長男悠(ゆう)(5)が生まれた。子育てに忙しい今の佐久間はこう言う。「悠が生きがいだ」(敬称略)