どうすれば安全安心:「こむら返り」をどう防ぐ 保温と水分補給、心がけて
2018年2月2日 (金)配信毎日新聞社
睡眠中や運動時に起きる「こむら返り」の痛みは、誰もが一度は経験したことがあるのではないか。原因はさまざまだが、加齢などに加え、冬場は冷えからもなりやすいという。頻発する場合は病気が隠れていることもある。専門家に対処法や予防策を聞いた。【鈴木美穂】
◇漢方薬服用、数分で効果/ストレッチ、習慣づける/頻発するなら受診を
「こむら」は、ふくらはぎのことで、ふくらはぎの筋肉が必要以上に収縮(けいれん)し、「つった状態」になることを「こむら返り」という。筋肉がつるのは、足首や指、太ももなどでも起きる。
原因は多岐にわたるが、「もう怖くない! 筋肉のつり こむらがえり」を著した整形外科医で、出沢明PEDクリニック(東京都世田谷区)院長の出沢明さんはこう説明する。「運動時や就寝中に起きることが多く、加齢や妊娠も原因になり得ます。冬場は『冷え』が誘発する場合もあり、ふくらはぎを冷やさない工夫が必要です。特に冷え性の人は長い靴下をはくなどして保温対策を万全にしましょう。温浴や足浴も効果的です」
出沢さんによると、筋肉には過剰な負担が掛かった場合、損傷を防ぐ「二つのセンサー」があり、これが「誤作動」するとこむら返りが起きるという。「センサーには筋肉の伸びすぎを調整する『筋紡錘(きんぼうすい)』と、縮みすぎを防ぐ『腱紡錘(けんぼうすい)』がありますが、そのうち腱紡錘の働きが鈍くなると、筋肉が異常に収縮してしまい、こむら返りが起きるのです」。脱水症状も原因になるといい、「予防として就寝前にコップ1杯の水を飲んでおくことが有効です」とアドバイスする。
「国立精神・神経医療研究センター」(東京都小平市)の医師で睡眠障害外来を専門とする精神生理部長の三島和夫さんは「手足の冷えのほか、睡眠中に掛け布団の重みで爪先が伸びた状態で長時間すごすことによって、ふくらはぎのけいれんが起こることがある」と語り、足首が直角になるよう足の裏に「巻いたタオル」を置いておくアイデアを提案する。
就寝時にこむら返りが起きたら、どう対処すればいいのだろう。
「まず、爪先を体側に引いてアキレスけんを伸ばすことが重要です。その際は焦らず、ゆっくりと行いましょう。手が届かなければ、爪先に長めのバスタオルをかけて両端を引っぱったり、ベッドのへりに足の裏を押しつけたりして伸ばすのも効果があります。枕元にバスタオルも置いておけば慌てずに対応できます」と三島さんは言う。けいれんが治ったら、それ以上無理に引っぱる必要はない。
こむら返りには、漢方の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を使うことが多い。頻度が多ければ毎日服用することもあるが、症状が出そうな時だけ頓服するのでもよい。三島さんは「運動しすぎたり、疲れがたまったりして、こむら返りが起きそうだと思ったら薬を用意しておきましょう」とアドバイスする。
出沢さんも芍薬甘草湯の効果を認めているが、注意点を付け加える。「飲んでから通常は2~3分で効果が出ます。ただ、常用すると低カリウム血症や高血圧になる危険性があります。ドラッグストアなどでも購入は可能ですが、掛かり付け医ともよく相談することをお勧めします」
薬に頼らずに、医師が推奨するさまざまな予防策を試すのも選択肢になりそうだ。
筋肉のセンサーである腱紡錘の働きが鈍る理由はまだ明らかでないが、こむら返りを防ぐ方法の一つとして、出沢さんは「バランスのよい食生活と水分補給が何よりも重要」と強調する。「普段からミネラルのバランスを意識した食生活を心がけることが大切です。筋肉の収縮などに必要なのはマグネシウムやカリウム、カルシウム。マグネシウムは、海産物のほかに納豆や落花生など、カリウムはバナナやリンゴ、カルシウムは煮干しや牛乳などに多く含まれています。こうした食品を意識して取り入れるようにしてほしい」
また、筋肉の疲れを残さないためにストレッチやマッサージを習慣づけたい。
こむら返りの慢性化には、筋肉量の減少や新陳代謝の低下も関わっていると考えられる。筋肉量は20代をピークに減少する傾向にあるといい、出沢さんは「年を取るほどこむら返りが起こりやすくなるのはこのため」と説明する。前著によると、高齢者の場合、家事や外出といった日常生活でも筋肉の疲労がたまってしまい、こむら返りが誘発されるという。
三島さんも米国の「こむら返りを訴えて、医療機関を受診した65歳以上の高齢者265人を対象にした調査」をもとに説明する。「高齢者のこむら返りの約75%が夜間に起き、このうち『1カ月に1回以上ある』のは7割以上を占めました」と話す。
出沢さん、三島さんも、「大半は一過性で心配がない」と口をそろえるが「病気が隠れている場合もある」と注意を促す。出沢さんは「糖尿病や循環器の病気があり、服用している薬の副作用からこむら返りが起きる人もいます。こうした持病がある人は頻度などに関わらず、医師に相談して原因を特定しておく方が安心です」と語る。
こむら返りが頻発する場合、中高年から発症が増える「腰部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症」や「脳梗塞(こうそく)」などが隠れていることがある。こうしたケースについては「痛みやしびれのほかに、歩行が困難になる『間欠跛行(はこう)』など、複数の症状が出ることが多い。痛がっている時に症状を観察するのは大変ですが、家族らにつっている場所や状態を見てもらい、その症状を医師に伝えることも、隠れた病気を特定するには肝心です」(出沢さん)。
頻度や痛みが強まっていくようであれば一度、医師に相談することが大切だ。頻繁に目が覚めれば睡眠の質が低下し、日常生活に悪影響も出かねない。
長期間、こむら返りで悩んでいる人は、神経内科や循環器科、整形外科、就寝時であれば睡眠障害外来などの専門医を受診することを考えてみたい。
2018年2月2日 (金)配信毎日新聞社
睡眠中や運動時に起きる「こむら返り」の痛みは、誰もが一度は経験したことがあるのではないか。原因はさまざまだが、加齢などに加え、冬場は冷えからもなりやすいという。頻発する場合は病気が隠れていることもある。専門家に対処法や予防策を聞いた。【鈴木美穂】
◇漢方薬服用、数分で効果/ストレッチ、習慣づける/頻発するなら受診を
「こむら」は、ふくらはぎのことで、ふくらはぎの筋肉が必要以上に収縮(けいれん)し、「つった状態」になることを「こむら返り」という。筋肉がつるのは、足首や指、太ももなどでも起きる。
原因は多岐にわたるが、「もう怖くない! 筋肉のつり こむらがえり」を著した整形外科医で、出沢明PEDクリニック(東京都世田谷区)院長の出沢明さんはこう説明する。「運動時や就寝中に起きることが多く、加齢や妊娠も原因になり得ます。冬場は『冷え』が誘発する場合もあり、ふくらはぎを冷やさない工夫が必要です。特に冷え性の人は長い靴下をはくなどして保温対策を万全にしましょう。温浴や足浴も効果的です」
出沢さんによると、筋肉には過剰な負担が掛かった場合、損傷を防ぐ「二つのセンサー」があり、これが「誤作動」するとこむら返りが起きるという。「センサーには筋肉の伸びすぎを調整する『筋紡錘(きんぼうすい)』と、縮みすぎを防ぐ『腱紡錘(けんぼうすい)』がありますが、そのうち腱紡錘の働きが鈍くなると、筋肉が異常に収縮してしまい、こむら返りが起きるのです」。脱水症状も原因になるといい、「予防として就寝前にコップ1杯の水を飲んでおくことが有効です」とアドバイスする。
「国立精神・神経医療研究センター」(東京都小平市)の医師で睡眠障害外来を専門とする精神生理部長の三島和夫さんは「手足の冷えのほか、睡眠中に掛け布団の重みで爪先が伸びた状態で長時間すごすことによって、ふくらはぎのけいれんが起こることがある」と語り、足首が直角になるよう足の裏に「巻いたタオル」を置いておくアイデアを提案する。
就寝時にこむら返りが起きたら、どう対処すればいいのだろう。
「まず、爪先を体側に引いてアキレスけんを伸ばすことが重要です。その際は焦らず、ゆっくりと行いましょう。手が届かなければ、爪先に長めのバスタオルをかけて両端を引っぱったり、ベッドのへりに足の裏を押しつけたりして伸ばすのも効果があります。枕元にバスタオルも置いておけば慌てずに対応できます」と三島さんは言う。けいれんが治ったら、それ以上無理に引っぱる必要はない。
こむら返りには、漢方の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を使うことが多い。頻度が多ければ毎日服用することもあるが、症状が出そうな時だけ頓服するのでもよい。三島さんは「運動しすぎたり、疲れがたまったりして、こむら返りが起きそうだと思ったら薬を用意しておきましょう」とアドバイスする。
出沢さんも芍薬甘草湯の効果を認めているが、注意点を付け加える。「飲んでから通常は2~3分で効果が出ます。ただ、常用すると低カリウム血症や高血圧になる危険性があります。ドラッグストアなどでも購入は可能ですが、掛かり付け医ともよく相談することをお勧めします」
薬に頼らずに、医師が推奨するさまざまな予防策を試すのも選択肢になりそうだ。
筋肉のセンサーである腱紡錘の働きが鈍る理由はまだ明らかでないが、こむら返りを防ぐ方法の一つとして、出沢さんは「バランスのよい食生活と水分補給が何よりも重要」と強調する。「普段からミネラルのバランスを意識した食生活を心がけることが大切です。筋肉の収縮などに必要なのはマグネシウムやカリウム、カルシウム。マグネシウムは、海産物のほかに納豆や落花生など、カリウムはバナナやリンゴ、カルシウムは煮干しや牛乳などに多く含まれています。こうした食品を意識して取り入れるようにしてほしい」
また、筋肉の疲れを残さないためにストレッチやマッサージを習慣づけたい。
こむら返りの慢性化には、筋肉量の減少や新陳代謝の低下も関わっていると考えられる。筋肉量は20代をピークに減少する傾向にあるといい、出沢さんは「年を取るほどこむら返りが起こりやすくなるのはこのため」と説明する。前著によると、高齢者の場合、家事や外出といった日常生活でも筋肉の疲労がたまってしまい、こむら返りが誘発されるという。
三島さんも米国の「こむら返りを訴えて、医療機関を受診した65歳以上の高齢者265人を対象にした調査」をもとに説明する。「高齢者のこむら返りの約75%が夜間に起き、このうち『1カ月に1回以上ある』のは7割以上を占めました」と話す。
出沢さん、三島さんも、「大半は一過性で心配がない」と口をそろえるが「病気が隠れている場合もある」と注意を促す。出沢さんは「糖尿病や循環器の病気があり、服用している薬の副作用からこむら返りが起きる人もいます。こうした持病がある人は頻度などに関わらず、医師に相談して原因を特定しておく方が安心です」と語る。
こむら返りが頻発する場合、中高年から発症が増える「腰部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症」や「脳梗塞(こうそく)」などが隠れていることがある。こうしたケースについては「痛みやしびれのほかに、歩行が困難になる『間欠跛行(はこう)』など、複数の症状が出ることが多い。痛がっている時に症状を観察するのは大変ですが、家族らにつっている場所や状態を見てもらい、その症状を医師に伝えることも、隠れた病気を特定するには肝心です」(出沢さん)。
頻度や痛みが強まっていくようであれば一度、医師に相談することが大切だ。頻繁に目が覚めれば睡眠の質が低下し、日常生活に悪影響も出かねない。
長期間、こむら返りで悩んでいる人は、神経内科や循環器科、整形外科、就寝時であれば睡眠障害外来などの専門医を受診することを考えてみたい。