体外式膜型人工肺
体外式膜型人工肺(たいがいしきまくがたじんこうはい、英: Extracorporeal membrane oxygenation, ECMO, エクモ)は、重症呼吸不全患者または重症心不全患者に対して(時に心肺停止状態の蘇生手段として)行われる生命維持法である。
心臓と肺が、生命を維持するのに十分な機能を失った際に、心臓と呼吸の補助をする治療法である。
ECMOは患者の体内から血液を抜き出し(脱血)、人工肺にて二酸化炭素を拡散により除去するとともに、赤血球に酸素を付加(酸素化)し、再び体内に戻す(送血)ことを行う。これにより、肺が本来行うべき酸素化と二酸化炭素除去を代替し、肺を全く使用しなくてもよい状況(Lung Rest)を作り出す。
1972年に J・ドナルド・ヒル(J. Donald Hill)らによって、外傷への整形外科手術後に発生した呼吸不全に対して、部分的な動脈灌流処置を行うことによって患者肺の機能が回復するに至った症例が、ECMOによる最初の救命例である。
2009年新型インフルエンザの世界的流行
2009年新型インフルエンザの世界的流行にて、発生した重症呼吸不全に対し、全世界でECMOが使用され、良好な成績を収めたが、当時V-V ECMOで遅れを取っていた日本では、生存率36%と惨憺たる結果だった。この時の教訓で、重症呼吸不全に対するECMOの治療成績高上を目指し、日本呼吸療法医学会では『ECMOプロジェクト』を立ち上げた。
新型コロナウイルス(COVID-19)患者での使用
2020年2月初旬から、中国の医師はSARS-CoV-2感染(COVID-19)に伴う急性ウイルス性肺炎を呈する患者の補助的対処療法として、換気後でも、血中酸素化レベルが低すぎて患者を維持できない場合、ECMOを利用している。最初の報告は、患者の血中酸素飽和度を回復しECMOが利用された重症例の約3%の死亡率を低下させるのに役立つことを示している。 日本では、重症呼吸不全患者に対して行われる呼吸ECMO(後述)について、2020年2月27日に続いて3月24日に第2版の基本的注意事項が出されている。ECMOの適応は
- 慎重かつ総合的に判断
- COVID-19 への ECMO 治療はかなりの人員と労力が必要
- PEEP 10cm H2O、P/F<100 で進行性に悪化する場合はECMOを考慮
であり、高圧での人工呼吸を長期間(約7日間)行った後のECMOは非常に予後が悪いとしている。また、ECMOの禁忌は、
- 不可逆性の基礎疾患
- 末期癌
- 慢性心不全、慢性呼吸不全、その他重度の慢性臓器不全の合併は予後が悪い
- 年齢 65-75 才以上は予後が悪く、一般的には適応外
としている。
2020年4月25日集計で、これまでのCOVID-19による重症呼吸不全ECMO治療患者109名中、離脱(回復)46名、治療継続中44名、死亡19名。
英国では、veno-venous ECMO(V-V ECMO, 静脈脱血―静脈送血 ECMO)の展開は指定されたECMOセンターに集中しており、潜在的にケアを改善し、より良い結果を促進している。
方式
ECMO主に2種類の方式がある。
- V-A ECMO(Veno-Arterial ECMO; 静脈脱血―動脈送血)
大静脈から血液を脱血し、人工肺で酸素化した後、大動脈に送血する。心不全やショック、心肺停止などに使用される。
日本ではV-A ECMOをPCPS(Percutaneous cardio pulmonary support)と呼ぶことがある。
心臓手術において、人工心肺がすでに確立されている場合、緊急開胸が行われた場合等は、胸部の大静脈と大動脈に直視下でカニューレを挿入するCentral ECMOを行うことがある。
- V-V ECMO(Veno-Venous ECMO; 静脈脱血―静脈送血)
大静脈から血液を脱血し、人工肺で酸素化した後、大静脈に送血する。全身に血液を送る機能は心臓に依存する。ARDSを伴う肺機能不全などに使用される。
呼吸不全を伴う心不全にはV-AV ECMO(静脈脱血―動静脈送血)を行う場合がある。
2009年のCESAR studyにてV-V ECMOの有用性が証明された。
ECMOnet
日本COVID19対策ECMOnet(略称・ECMOnet)は、日本集中治療医学会がECMOを中心とした重症管理の助言を行う電話相談窓口。ECMOによる呼吸管理に習熟した人材が十分でない施設でも、重症例の治療に当たる必要がある状況が発生し得ることから、医療機関へのサポートを24時間体制で実施することに決めた。専用電話番号は、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本呼吸療法医学会、日本感染症学会、日本呼吸器学会、PCPS/ECMO研究会の会員にのみ配信している。広域搬送の判断で、ECMOcarと名付けられた大型救急車が向かい長距離搬送することもある。