【福岡】「猫の島」コロナから守る 新宮・相島 着任の女性医師 町と連携し水際対策
2020年7月22日 (水)配信読売新聞
新型コロナウイルスが猛威を振るった今春、玄界灘の離島・相島(新宮町)の診療所に、初めてへき地医療の現場に立つ女性医師が赴任した。狭い集落に住民が集中し、人間関係も濃密な島にウイルスが入り込めば、感染拡大は避けられない。第2波への懸念が高まる中、医師は自治体と連携しながら、水際対策の最前線で「感染確認ゼロ」を守っている。
北九州市出身の内科医、津田桂さん(30)。小学生の時に医師を志し、県立小倉高から自治医科大(栃木県)へ進んだ。4月に飯塚市立病院から約250人が暮らす相島の診療所長に着任した直後、福岡など7都府県に緊急事態宣言が発令された。
多くの猫が生息する相島は近年、SNSなどを通じて「猫の島」として知られるようになり、海外を含め多くの愛猫家が訪れる。町によると、昨年度、本土と島を結ぶ町営渡船「しんぐう」を約20万人が利用したが、8割は猫目当ての観光客や釣り客ら。3月に新型コロナに伴う臨時休校が始まると、島を訪れる人はさらに増えたという。
島には、感染すると重症化しやすい高齢者が多い。津田さんは、ウイルスが持ち込まれることを恐れる島民の声や島の状況を町に伝え、乗船前の検温などを提案。町は観光客や釣り客に対し、渡船に乗らないよう求める措置を取った。ポスターやホームページで呼びかけたり、港に来た人に事情を説明して渡島を諦めてもらったりし、4~5月の乗船者数を前年同期の1割に抑え込んだ。
島には、眼科や整形外科の治療で本土の医療機関にかかる人も多い。「通院で感染するのが怖い」と聞いた津田さんは、島にはない薬を取り寄せ、診療所で処方できるようにした。4月と6月には、感染対策や最新の受診基準をまとめたお知らせを手作りし、全戸に配布。いつでも相談できるよう、携帯電話の番号も書き添えた。
昨年、腎臓内科医の夫、晋さん(30)と結婚したばかりだが、普段は単身で島で暮らす。高血圧や糖尿病といった慢性的な疾患を抱えた患者が多いが、深夜に一刻を争う急患が出れば、密漁監視船に同乗して本土まで搬送する。
島にとって津田さんは、8年ぶりに迎えた女性医師。診療所で働いて29年目の看護師、山田ひづるさん(61)は「女性ならではの細やかな気配りと優しさがある」という。診療所に体調不良を訴える電話が入れば、2人で自宅まで駆け付けることも珍しくない。
津田さんは島に来て、釣りを始めた。港で糸を垂らしていると、声をかけてくる島民も増えた。「何かあった時、『まずは診療所に』と頼ってもらえるようになりたい」と話す。