混乱する高齢者ワクチン…医療機関9割が公表拒否、希望者「予約どうすれば」
新型コロナウイルスワクチンの65歳以上の高齢者への接種で混乱が生じている。これまで施設入所者が中心だった接種対象を5月から一般の高齢者へと広げる地域が多いが、まだワクチン供給量が十分ではないためだ。予約開始前から医療機関に問い合わせが殺到したり、業務への支障を懸念した医療機関が名前の公表を拒否したりする事態となっている。
■診療に影響懸念
京都市で11日から始まる個別接種では、希望者が最寄りの診療所などに予約する仕組みにもかかわらず、接種を担う医療機関の9割近くが、問い合わせの殺到を恐れて名前の公表を拒否し、予約先が分からない状態になっている。
市は約41万人の高齢者の7割に個別接種を受けてもらう予定で、予約に必要なクーポン券(接種券)を配布。しかし接種できる医療機関として市が公表したリストには、ワクチンが配分される約700施設のうち82施設の名前しかない。
市は「公表はしていないが多くの医療機関で接種できる。まずかかりつけ医に相談してほしい」とするが、京都市右京区の自営業男性(71)は「風邪を引いたら病院に行くぐらいで、かかりつけ医はいない。どうすればいいのか」と戸惑う。
公表に応じた医療機関が少ないのは、当面のワクチン供給が少ないからだ。接種開始日に診療所などに配分されるワクチンはそれぞれ25回分だけ。公表を断った京都市東山区の診療所の医師は「もう50人の予約申し込みがある。公表すればさらに増え、日常の診療に影響が出る」と明かす。
京都市北区の診療所は当初は公開に応じたが、予約相談が相次ぎ、受け付けきれず、市に公表リストからの削除を求めた。市は個別接種の予約ができない場合、29日から週末限定で行う集団接種を受けてもらう予定だが、この診療所の院長は「市の対応は丁寧さを欠いている」と憤る。
■他の地域でも
新型コロナのワクチンは各自治体が経験したことのない大規模な接種のため、トラブルが目立っている。
松山市では4月23日から高齢者約15万人に接種券を配布したが、予約開始日(5月10日)や予約窓口を記載していなかったため、希望者からの問い合わせが各医療機関に殺到。市医師会が「業務に支障が出る」と訴え、市は1日1回、防災行政無線で予約開始日などを周知している。
堺市では市が設定した5月10日の予約開始日を前に、約300の医療機関の一部が独自の判断で「仮予約」などとして受け付けを始めている。接種券が届いた高齢者から問い合わせが相次ぐなどしており、申し込みを受け付けた病院の関係者は「何も対応しなければ、高齢者がパニックになりかねない」と説明する。
市は医師会を通じて各医療機関に予約開始日を改めて周知しているが、別の病院で4月27日に「予約」した市内の男性(76)は「病院で貼り紙を見て申し込んだが、なぜこんなことが起こるのか。不公平だ」と話していた。