山陰で初めてドーム型ハウスでの発熱外来を実施した出雲市の伊藤医院は、県内で唯一、診療所として心臓リハビリテーションを行っている。心不全の患者数が全国で100万人を超え、がんと並ぶ社会的問題になりつつある中、訪問心臓リハビリテーションの実施や啓発活動などに力を注ぐ院長の伊藤新平氏に話を聞いた
――診療所としては島根県内で唯一、心臓リハビリテーションを実施しています。
心不全の患者は全国で100万人を超え、現在も増加傾向にあります。出雲市も例外ではなく、入院患者数の将来推計は右肩上がりで、必要病床数の増加が見込まれています。患者の心機能はたいてい、入院のたびに低下します。心機能を維持し、健康寿命を延ばすためには、まず入院させないことが重要なのです。そこで力を発揮するのが心臓リハビリテーション(心リハ)です。
心リハは、単なる運動療法ではありません。心疾患患者の最適な身体的、心理的、社会的状態を回復および維持し、基礎にある動脈硬化の進行を抑制し、さらに罹患率と死亡率を低下させることを目指す多面的介入なのです。心不全や心筋梗塞、心臓手術後の患者は、心臓の働きが落ちている上、安静を続けたことで運動能力や体の調節機能も低下しています。しかし退院後、強い活動はできません。専門家の下、心リハで適切な運動療法を行うことが身体的回復につながります。また、当院では、心臓病の原因となる動脈硬化の進行防止を狙って、食事指導や禁煙指導も実施。カウンセリングや復職指導も行います。医師、理学療法士、看護師、薬剤師、臨床心理士、検査技師、作業療法士、健康運動指導士など多くの専門医療職が関わって、患者の状態に応じた効果的かつ総合的なリハビリプログラムを提案・実施します。
地方厚生局によると、日本では心リハを実施している医療機関が1436施設(2020年4月)と少なく、診療所での実施はその1割ほどです。しかも島根県は2014年時点、人口10万人比で最少でした(現在は全国平均程度まで改善)。私は、島根大学医学部附属病院などで心リハに携わっていたこともあり、当院での実施を試みることにしました。2021年4月現在、島根県内で心リハを実施しているのは、当院含め7施設。診療所は当院のみで、ほかは島根大学医学部附属病院や松江市立病院など、救急医療や地域医療拠点を担っている病床数300弱から600強の病院です。
――どのように心リハを実施していますか。
もともと軒下だった場所を改装して、心リハ施設基準を満たす20平方メートルを確保しました。保険適用上必須設備であるエルゴメータや心電図モニター、酸素供給装置などに加え、運動負荷試験装置(CPX)や、筋肉や体脂肪分、水分などの体成分を定量的に分析できる装置も備えました。
急性期治療やベッドサイドリハなどを行う急性期と、退院指導・教育、運動療法を行う前期回復期の心リハは、入院中に行います。外来でリハビリを実施する当院は、退院後の後期回復期以降を担い、運動療法から生活指導・教育などを実施。寝たきりや再入院を予防して、患者のQOLの維持・向上、健康寿命の延伸を目指しています。出雲地域の急性期病院2施設と連携し、2018年8月から当院での心臓リハビリテーションを開始しました。
理学療法士(PT)が横について行うエルゴメータを使った有酸素運動、レジスタンストレーニングなどに加え、管理栄養士の協力を得ながら減塩や禁煙の指導なども実施。週に1度は、医師、看護師、PT、事務職員による多職種カンファレンスを行って、情報を共有しています。また、「心リハノート」を作って家族や、他の医療機関とも情報を共有。ノートには、患者の人生の目標や、大事にしていること、心リハに対する希望なども記してもらい、アドバンス・ケア・プランニングにも取り組んでいます。患者の同意の下、診療情報などを閲覧できる、しまね医療情報ネットワーク「まめネット」も活用しています。