ワクチンで「黒幕が人類管理」「人口削減が狙い」…はびこる陰謀論、収束の妨げにも2021年5月16日 (日)配信読売新聞
新型コロナウイルスを巡り、SNS上で「感染拡大はウソ」「世界の黒幕が、ワクチンで人類を管理するのが目的」といった虚偽の言説が広がっている。欧米では昨年から、不満や不安を背景に同種の陰謀論が浸透し、社会問題になった。日本でも緊急事態宣言下で経済的に困窮する人が増えており、惑わされないよう注意が必要だ。
「コロナは茶番」「マスクを外そう」
大型連休中、JR大阪駅前で、そんな文言が書かれたパネルを持った約10人のグループが街頭演説をしていた。主催したのは神奈川県の40代の男性。東京や福岡など全国で毎週デモなどをしており、ツイッターで呼びかければ共感した人が集まるという。
通行人に配っていたビラでは「コロナはただの風邪。世界の資本家が各国の政府を操り、でっち上げている」「ワクチンで人間にマイクロチップを埋め込むのが目的」などと主張。
根拠のない話だが、男性は「ネットで調べて『真実』を知った」と言う。
大阪市内の30代の女性は、小学5年の息子を連れて参加した。きっかけは昨年、自殺した人気俳優の「他殺説」を唱えるユーチューブ動画などだった。何度も見るうちにコロナの陰謀論の動画を目にするようになり、信じ込むようになった。
女性は「ワクチンは人口削減が狙いで、5年で死ぬと聞いた。息子にも教えている」と話した。
収束の妨げ
他にもデモで同じような陰謀論を流布させるグループが複数あり、ツイッターやユーチューブで連日投稿して数万人の登録者を集める者もいる。信じた人が拡散しており、誰でも目に触れる可能性がある。
休業や時短要請の対象となっている飲食店経営者の中にも、デモなどに参加する人がいるという。
欧米ではコロナ陰謀論の拡散が、マスク着用などの感染対策への大規模な反対運動に発展した。
千葉大病院の谷口俊文医師は2月、医師の有志でウェブサイト「こびナビ」を開設。コロナワクチンの正確な情報の発信を始めたが、誤った情報に基づいて「ワクチンは危険」「ウソをつくな」などと批判するメッセージが多数届くという。
谷口医師は「コロナに疲れた人が、虚偽の情報に引き寄せられる可能性がある。さらに広まれば感染収束の妨げになりかねず、非常に危険だ」と懸念する。
都合よい情報信じる危険…東京大特任講師・内田麻理香さん(科学コミュニケーション論)
陰謀論は荒唐無稽に見えるが、政府などが科学的に正しい情報を発信するだけでは広がりを防ぐのは難しい。全ての人間に備わっている「認知バイアス」が関係しているからだ。
人は知らず知らずのうちに自分が不快な情報を避け、生きづらくないように解釈するくせがある。
今の日本はコロナ禍の収束が見通せず、不安や不満が高まっている。生活が苦しくなっている人も多い。そんな状況で「黒幕によって仕組まれた」「我慢しなくていいんだ」という誤ったストーリーに飛びついてしまう人が増えてもおかしくない。
一度信じてしまうと、他人に否定されても、より強固に信じてしまうことがある。「バックファイア効果」と呼ばれ、ネット上には考えに合致する都合のよい情報がいくらでもあり、「やはり正しかった」と錯覚してしまう。
重要なのは、誤った情報が広がらないよう、もっと否定情報を出していくことだ。国や専門家、メディアなどは、陰謀論を受け入れてしまう人間の認知バイアスを理解して、発信方法を工夫する必要がある。