感染急増、懸命の水際対策 ファクターX、覆す懸念も インド変異株猛威
2021年5月19日 (水)配信共同通信社
インドで新型コロナウイルス感染者急増を招いた変異株流入を防ごうと、アジア各国が水際対策に懸命だ。世界保健機関(WHO)などによると、アジアの感染者数は4月以降、ワクチン接種が進む欧米の合計を上回る。「成功例」とされた台湾やシンガポールでも増加。感染力の強いインド変異株はアジア人の感染を防ぐ「ファクターX」を覆す存在になる懸念もある。五輪を控える日本には大きな不安要因だ。
▽優等生の緊張
「突破された」。玄関口のチャンギ国際空港を中心に厳戒態勢を敷き防疫の「優等生」とされてきたシンガポール。16日時点で少なくとも74人のクラスター(感染者集団)が空港で発生し、運輸相は何重もの防御が破られたことを嘆いた。
シンガポールのコロナ死者はこれまでわずか31人。変異株を警戒し、入国者の強制隔離期間を2週間から3週間に延長するなど先手を打ってきた。感染リスクが高いとして空港労働者らに優先接種したが、接種済みの男性清掃員(88)が陽性となり、クラスターが発覚した。
市内では、感染ルートを追跡できない事例が発生。政府は16日から来月13日まで外食禁止や原則在宅勤務を求めた。中心部の屋台街で持ち帰りに絞って営業する料理店の男性は「見ての通り客はいない。仕方ないが大変だ」と話した。
同じく優等生とされてきた台湾でも今月中旬以降、市中感染が拡大し、台北市政府が外出を極力控えるよう呼び掛け緊張が高まった。中央感染症指揮センターによると、台湾でインド変異株の感染は3例確認。居留資格がない外国人の入境は19日から原則禁止に。インドに滞在した外国人の入境は既に停止した。
▽一進一退
これまで感染爆発に至っていなかった東アジア諸国。インド変異株は、手洗い習慣などのアジア特有のファクターXを物ともせず、猛威を振るうことになるのか。中国や韓国は厳しい水際対策で懸命に耐えている。
中国は入国者を2~3週間隔離し、複数回PCR検査を実施する厳しい措置を継続。新規発症者はほとんどが本土外から到着した人にとどまっている。
「一部の都市」で既にインド変異株を検出。浙江省は今月10日、停泊中の香港籍船舶の船員から4月下旬に「インドで流行中の型」を検出したと発表した。
韓国も一進一退が続く。感染者のうち変異株が占める割合は4月上旬の約7%から5月上旬には約28%に急増。緊急退避用の臨時航空便でインドから帰国した韓国系企業駐在員ら計約540人のうち十数人の感染が判明した。
日本の厚生労働省も国内での監視を強化するとの通知を都道府県などに出し警戒。月内にもインド株特有の変異を見つけるPCR検査を導入する。(シンガポール、台北、北京、ソウル共同)
※ファクターX
アジアの新型コロナウイルスによる感染者や死者が、欧米に比べて比較的少ない何らかの要因。英語の「FACTOR(要因)」と未知を表す「X」を組み合わせた言葉で、ノーベル医学生理学賞を受賞した京都大の山中伸弥(やまなか・しんや)教授が名付けた。教授は候補として「文化や生活習慣の違い」や「遺伝や免疫学的要因」を挙げ、解明できれば対策に生かせるとして注目を集めた。最近はインドで感染が急拡大するなどアジア各国で状況が悪化し、ファクターXの存在に懐疑的な見方もある。(共同)