医療機関「防止に限界」 申請促す効果も コロナ労災に特例措置
厚生労働省は新型コロナウイルス感染の労働災害(労災)に特例措置を導入し、事業者の保険料を増額しないことを決めた。コロナ患者の治療に当たる医療関係者は「100%の感染防止策は取れない。当然の対応」と評価。これまで感染した労働者が事業者の協力を得られず、労災申請できなかったケースがあり、負担を軽減することで申請を促す効果もありそうだ。
主に中等症のコロナ患者を受け入れてきた大同病院(東京都豊島区)。今春に看護師や理学療法士ら数人が感染、労災認定された。昨年4月からコロナ患者の受け入れを始め、看護師は日替わりで患者を受け持った。
加藤進(かとう・すすむ)事務長は「感染防止策は講じてきたが、目に見えないものには勝てなかった」と振り返り、「普段なら労災はあってはならないが、コロナ対応は戦争と同じくらいの有事。負担軽減は正当だ」と強調した。
労災保険制度は労災事案が増えると事業者が支払う保険料が増額される仕組みだが、特例措置でコロナ関連は除外した。厚労省中堅は「たくさん患者を診るほど労災リスクが高まる」と指摘。「頑張ったところばかりが損をするのは国民感情としてもおかしい。コロナ感染が増えたところほどしっかり支えないといけない」と話した。
コロナ関連による労災申請は10月末時点で約2万件、認定を受けたのは約1万6千件に上り、医療機関と介護施設が大半を占める。ただ、申請に消極的な事業者もある。
名古屋労災職業病研究会(名古屋市)によると、愛知県の70代女性は、介護施設で働いていた昨年7月にコロナに感染した。仕事以外の外出はスーパーに行くくらいで同居の家族らは陰性。仕事中に感染したと思い労災申請を検討したが、勤務先は「施設内で他に陽性者がいない」と協力を拒否した。
研究会が支援し労働基準監督署に申請すると、同9月に認定された。女性はいまだにコロナ後遺症とみられる倦怠(けんたい)感に襲われ、仕事に復帰していない。認定されたことで医療費は無料になり、休業補償も出た。
成田博厚(なりた・ひろあつ)相談員は「申請していなければ医療費の負担が心配になっていただろう。休業補償などの請求期限は2年ある。心当たりのある人は今からでも申請を考えてほしい」と呼び掛けた。