首相裁定、日医に配慮 麻生氏不満、痛み分け 診療報酬
2021年12月23日 (木)配信共同通信社
医療機関の収入に当たる診療報酬の改定率が22日、正式決定した。日本医師会(日医)は新型コロナウイルス禍による病院などの苦境を踏まえ、医師の人件費などに当たる「本体」部分の引き上げを要求。医療費抑制を目指す財務省は、日医執行部に批判的な自民党の麻生太郎副総裁と歩調を合わせ攻勢に出た。最後は、来夏の参院選を意識する岸田文雄首相が日医に配慮。痛み分けの裁定となった。
▽参院選
「これで日医も文句は言わないだろう」。19日午後、本体部分を0・43%引き上げることを決断した岸田首相。鈴木俊一財務相、後藤茂之厚生労働相との協議を終えると、参院選で日医の協力を当て込んだ判断だったと周囲に明かした。
診療報酬は、引き上げれば病院や薬局が増収となる半面、医療費が増えて税金や保険料の負担が重くなる。コロナ禍で初となった改定議論は、日医や厚労省が医療機関の赤字を訴え増額を求める一方、財務省は「コロナ向け補助金を含めれば経営は好調」と引き下げを主張。決着直前になっても、本体0・48%増を求める厚労省と、0・32%増にとどめたい財務省の溝は埋まらなかった。
▽援軍
財務省が強気を崩さなかったのは、麻生氏という援軍を得たからだ。麻生氏は、日医前会長で4期務めた横倉義武(よこくら・よしたけ)氏と蜜月。共に福岡県が地元で、長らく財務相と日医会長として太いパイプでつながってきた。その横倉氏を退け、昨年会長に就いた中川俊男(なかがわ・としお)氏は、政府のコロナ対応に注文を付ける場面が目立ち、政権との距離が遠ざかっていった。
「横倉の時代を超えるな」。改定を巡る折衝が本格化した9日、麻生氏は国会内の控室で向き合った自民党厚労族幹部の加藤勝信前官房長官にくぎを刺した。横倉氏の会長時代の平均改定率0・42%増を上回らないよう要求。加藤氏は17日にも麻生氏を再訪し説得を試みたが、麻生氏が軟化することはなかった。
▽安堵
日医は劣勢に立たされた。自民の厚労族ベテラン議員は「財務省は血も涙もない。これでは参院選は戦えない」と嘆いた。ここで医療界へのダメージを懸念して動いたのが、横倉氏だった。改定率決定の数日前、首相側近に「0・42%にはこだわらない。医療界が落ち込まないようにしてほしい」と伝達した。
結果、首相裁定は0・43%に。麻生氏は周囲に「そこまで上げることはなかった」とこぼした。最悪の事態を回避した日医の中川会長は、22日の記者会見で「必ずしも満足ではないが、厳しい国家財政の中でのプラス改定は率直に評価したい」と安堵(あんど)をのぞかせた。ただ、コロナ禍前の2019年末に決まった前回改定率0・55%は下回る。自民の閣僚経験者は「勝者のいないバランス裁定だ」とうなった。