くらしナビ・社会保障:「マイナカード保険証」の課題/上 運用始めた医療施設、まだ少数
2021年12月23日 (木)配信毎日新聞社
医療機関と薬局でマイナンバーカードが健康保険証として使える仕組みの本格運用が始まり2カ月が経過した。国内の半数を超える施設が導入する見込みだが、実際に使える施設はわずかにとどまる。普及の現状と課題を探った。
今回の運用は、国が進めるマイナンバーカードの普及策の一環。利用者が専用サイトなどで事前に登録すれば、専用の顔認証付きのカードリーダーが設置された医療機関で健康保険証として使用できる仕組みだ。
厚生労働省によると、12日時点で約13万施設がカードリーダーを申し込み、全体の57%。しかし、実際に患者がカードを利用できる施設は約2万施設で全体の9%と、導入予定と運用施設数に開きがある。厚労省の担当者は「新型コロナワクチンの窓口対応に追われる医療機関や、半導体不足で導入に必要なパソコンが準備できていないところもある」と話す。
●薬局も積極的
東京都品川区のNTT東日本関東病院は9月から運用している。狙いは業務の効率化だ。カードがあれば氏名や生年月日、住所などの情報を自動で取り込める。健康保険証は患者1人につきパソコンへのデータ入力に10分ほどかかる。保険証の裏面に手書きで記入してある住所などは文字が読みにくいこともあった。
医療機関よりも導入に積極的なのが薬局だ。全国の8割の施設が取り入れる見込みだ。大手調剤薬局チェーンの日本調剤では、10月20日時点で全店舗の96%にあたる663店でカードが使える。同社が着目したのは、患者の同意があれば過去に処方された薬や特定健診(メタボ健診)の情報を参照できる点だ。
紙に記録していく「お薬手帳」の場合、患者が手帳を忘れた時には記録が漏れる可能性がある。正確なデータを把握することで、成分や目的が同じ薬の重複、飲み合わせてはいけない薬の処方を避けられる。健診の情報からは薬の処方量が適切か判断できるという。
患者も利点はある。カード所持者用サイト「マイナポータル」で特定健診や過去の処方薬の情報を閲覧できる▽確定申告のために医療費の領収書を保存する必要がなくなる▽国民健康保険や後期高齢者医療制度の加入者は保険証の定期更新が不要になる――などだ。
患者にとって高額診療の支払いが簡単になるのも大きな利点だ。NTT東日本関東病院では入院や、外来で抗がん剤治療を受けて高額な医療費がかかる患者も少なくない。通常は一旦窓口で支払った後に限度額を超える分は払い戻しを受けるか、限度額で済むよう患者側で事前に申請する必要がある。カードがあれば、医療機関が患者の同意を得た上で限度額を照会することができるため、限度額を超える窓口での支払いが不要となる。
●照会機能に限界も
ただ、施設側が利点を実感できるほど使う人はいないのが現状だ。NTT東日本関東病院には1日あたり約1500人の外来患者が来る一方で、9~12月中旬にカードを使ったのは43人。システム導入に携わった職員は「患者さんの半分ぐらいに利用してもらえれば、事務は楽になる」と話す。日本調剤では全国の店舗で年間延べ約1062万人の患者が訪れるが、10月下旬からの2カ月間でカード利用は延べ約2000回。同社の担当者は「運用施設が増えなければ、患者さんの利用が広まらない」と話す。
また、医療機関側の導入のメリットとして挙げられている薬の処方や健診情報の照会機能にも限界がある。厚労省によると、薬の情報は処方から情報が閲覧できるまで最大で1カ月程度かかる。月ごとの診療報酬の請求を元にするためだ。薬局が閲覧できる特定健診も1年に1度のため最新の状態ではなく、受診している年齢層も40~74歳に限られる。日本調剤の担当者は「これまで得ていた情報を補完できる」としつつも「リアルタイムの情報を見られるとより使いやすくなる」と話した。【中川友希】