「孤高のメス」作者の医師がつづる権威の象徴「医学博士号」への違和感
2022年3月14日 (月)配信神戸新聞
兵庫県南あわじ市阿那賀の阿那賀診療所の医師で、小説「孤高のメス」の作者でもある大鐘稔彦さん(78)が、自伝的エッセー「私が"足の裏の飯粒"を取らなかった理由」を出版した。足の裏の飯粒とは、大鐘さんなりに医学の博士号を例えた言葉で、「取っても食べられないが、取らないと心地悪い」という意味。「医学博士」が医師の権威の象徴として扱われる現状に一石を投じている。(西竹唯太朗)
エッセーは、大鐘さんが大学医学部に在籍するころから、南あわじの診療所に赴任するまでの人生をたどった。学位の取得が臨床医としての腕前に何ら効果をもたらさない、とする確信を貫き、若手医師に技術を磨くよう勧める。博士号取得を巡る同僚医師らの葛藤も思い起こしつつ論じた。
大鐘さんによると、医学の博士号を取得するには主に大学医学部を卒業後大学院に入るか、医局の医師として勤務しながら、各自がテーマを定めた研究論文をまとめる。
その過程で、臨床医として患者と向き合い、画期的な手術方法の確立などで学位を取得する医師がいる一方、既に実証された研究内容をなぞる形で博士になる医師もいるという。
大鐘さんは、消化器外科の専門医として数々の手術を担当した経験から専門性の重要性を強調する。
同時に、専門とする病気や臓器を絞りすぎることの弊害も指摘。突発の外来患者に対応できなかった同僚医師に接したからで、「患者の腹を開けばどんなことがあっても逃げない覚悟が重要。そのためにはある程度、広い技術と知識も必要」と説く。
223ページ。大鐘さんは「医師以外の人にも読んでもらい、肩書が無意味であり、執刀実績で医師を選んでほしいという思いを伝えたい」と話している。
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