介護休業、企業の対応カギ 厚労省、離職減へ要件見直し
2016年6月27日 (月)配信朝日新聞
厚生労働省が、家族のための介護休業を取りやすくするように、休業の要件の見直しに乗り出す。従来より緩和し、場合により「要介護1」でも取れるようになる可能性がある。対象の親族も同居以外に広がる。「介護離職」を減らす取り組みが徐々に動き始めた。
■制度使えず退職も
「いまの基準はわかりづらい」。そう語る東京都葛飾区の渡辺紀夫さん(51)は、介護施設で契約社員として働きながら、認知症と腎不全を患った父親を介護した経験がある。
父親は食事や排泄(はいせつ)の介助や見守りが必要で、「要介護5」と認定された。しだいに症状が重くなり、介護休業の取得を会社に希望したが「うちは認めていない」と断られたという。
その後、介護休業を取るために対象の家族が「要介護状態」かどうかを判断する基準があると知ったが、父があてはまるのかは分からず、それ以上要望できなかった。2012年に退職。父は翌年亡くなった。
今は食品工場でアルバイトとして働くが、前の職場に理解があれば退職せずにすんだ可能性もある。渡辺さんは「一部の大企業以外では介護休業の理解が進んでいない。基準を見直すだけでなく、行政や企業が労働者に積極的に情報提供してほしい」と話す。
今の介護休業の基準は、介護保険制度では「要介護2~3程度」相当とされる。介護休業と介護保険の要介護認定は基準が異なり、わかりにくかった。新基準の案では、介護休業が取れる要件を、「要介護2以上」と明確にする。
要介護認定を受ける前でも、基準に従って一部介助が必要と判断されれば取得でき、「要介護1」の一部も対象になる可能性がある。厚労省は有識者の研究会で議論しており、7月中に基準をまとめて、来年1月から施行する。
同省はこのほか、1回しかとれない介護休業を3回まで分割して取れるようにしたり、対象の家族を同居していない祖父母や兄弟姉妹にも広げたりして、介護休業の取得を促す。
■法定外の支援進まず
同省の調査では、企業の中で介護休業など法定の制度を整えているとの回答は87・2%あった。しかし、法定以外の制度などを充実させていると答えた企業は15・8%。介護する親族を抱える従業員の実態を「特に把握していない」と答えた企業も半数近くあった。
介護休業は最大93日間取れる。介護は長期にわたることもあり、仕事との両立を図る態勢を整えるために必要となる制度だ。
取得が広がるには、まず企業や働き手に制度への理解が広がる必要がある。さらに、企業が独自に働き手を支援する取り組みも欠かせない。みずほ総合研究所の大嶋寧子・主任研究員は「社員が介護の問題を抱え込まないよう、企業にはその人に適した会社の制度や介護保険サービスの情報を提供することが望まれる。介護は育児と違って先が見えにくいだけに、介護中は利用可能なフレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方を充実させることも検討していい」と指摘する。
(畑山敦子、末崎毅)
■介護休業が取れる新しい要件(厚生労働省案)
◆要介護2以上
◆要介護認定前や認定を受ける年齢に達しない人の場合は、下記の表の2が二つ以上、または3が一つ以上当てはまり、その状態が継続すること
*
◇10分間1人で座っていられる
【1】自力で可能 【2】支えてもらえば可能 【3】できない
◇5m程度の歩行
【1】つかまらないでできる 【2】何かにつかまれば可能 【3】できない
◇ベッドと車いすなどの乗り移りの動作
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇水分・食事摂取
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇排泄
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇衣類の着脱
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇意思の伝達
【1】できる 【2】ときどきできない 【3】できない
◇外出すると戻れない
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇物を壊したり衣類を破ることがある
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇周囲が対応しないといけないほどの物忘れがある
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇薬の内服
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇日常の意思決定
【1】できる 【2】特別な場合を除いてできる 【3】ほとんどできない
2016年6月27日 (月)配信朝日新聞
厚生労働省が、家族のための介護休業を取りやすくするように、休業の要件の見直しに乗り出す。従来より緩和し、場合により「要介護1」でも取れるようになる可能性がある。対象の親族も同居以外に広がる。「介護離職」を減らす取り組みが徐々に動き始めた。
■制度使えず退職も
「いまの基準はわかりづらい」。そう語る東京都葛飾区の渡辺紀夫さん(51)は、介護施設で契約社員として働きながら、認知症と腎不全を患った父親を介護した経験がある。
父親は食事や排泄(はいせつ)の介助や見守りが必要で、「要介護5」と認定された。しだいに症状が重くなり、介護休業の取得を会社に希望したが「うちは認めていない」と断られたという。
その後、介護休業を取るために対象の家族が「要介護状態」かどうかを判断する基準があると知ったが、父があてはまるのかは分からず、それ以上要望できなかった。2012年に退職。父は翌年亡くなった。
今は食品工場でアルバイトとして働くが、前の職場に理解があれば退職せずにすんだ可能性もある。渡辺さんは「一部の大企業以外では介護休業の理解が進んでいない。基準を見直すだけでなく、行政や企業が労働者に積極的に情報提供してほしい」と話す。
今の介護休業の基準は、介護保険制度では「要介護2~3程度」相当とされる。介護休業と介護保険の要介護認定は基準が異なり、わかりにくかった。新基準の案では、介護休業が取れる要件を、「要介護2以上」と明確にする。
要介護認定を受ける前でも、基準に従って一部介助が必要と判断されれば取得でき、「要介護1」の一部も対象になる可能性がある。厚労省は有識者の研究会で議論しており、7月中に基準をまとめて、来年1月から施行する。
同省はこのほか、1回しかとれない介護休業を3回まで分割して取れるようにしたり、対象の家族を同居していない祖父母や兄弟姉妹にも広げたりして、介護休業の取得を促す。
■法定外の支援進まず
同省の調査では、企業の中で介護休業など法定の制度を整えているとの回答は87・2%あった。しかし、法定以外の制度などを充実させていると答えた企業は15・8%。介護する親族を抱える従業員の実態を「特に把握していない」と答えた企業も半数近くあった。
介護休業は最大93日間取れる。介護は長期にわたることもあり、仕事との両立を図る態勢を整えるために必要となる制度だ。
取得が広がるには、まず企業や働き手に制度への理解が広がる必要がある。さらに、企業が独自に働き手を支援する取り組みも欠かせない。みずほ総合研究所の大嶋寧子・主任研究員は「社員が介護の問題を抱え込まないよう、企業にはその人に適した会社の制度や介護保険サービスの情報を提供することが望まれる。介護は育児と違って先が見えにくいだけに、介護中は利用可能なフレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方を充実させることも検討していい」と指摘する。
(畑山敦子、末崎毅)
■介護休業が取れる新しい要件(厚生労働省案)
◆要介護2以上
◆要介護認定前や認定を受ける年齢に達しない人の場合は、下記の表の2が二つ以上、または3が一つ以上当てはまり、その状態が継続すること
*
◇10分間1人で座っていられる
【1】自力で可能 【2】支えてもらえば可能 【3】できない
◇5m程度の歩行
【1】つかまらないでできる 【2】何かにつかまれば可能 【3】できない
◇ベッドと車いすなどの乗り移りの動作
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇水分・食事摂取
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇排泄
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇衣類の着脱
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇意思の伝達
【1】できる 【2】ときどきできない 【3】できない
◇外出すると戻れない
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇物を壊したり衣類を破ることがある
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇周囲が対応しないといけないほどの物忘れがある
【1】ない 【2】ときどきある 【3】ほとんど毎日ある
◇薬の内服
【1】自力で可能 【2】一部介助、見守り等が必要 【3】全面的介助が必要
◇日常の意思決定
【1】できる 【2】特別な場合を除いてできる 【3】ほとんどできない