40年以上前に発表した同名小説で堺屋氏は、団塊世代が高齢化し福祉予算が膨張する近未来を予測。登場人物の口を借りて「やがて若い世代の反乱が起きるかもしれませんよ」と警鐘を鳴らした。先見の明と言える。
現在も約630万人を擁する団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護の経費増大が懸念されるのが、社会保障を巡る「2025年問題」だ。全人口の6人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる未曽有の超高齢社会が8年後に迫っている。政府の試算では医療費は15年度の4割増、介護費は2倍近くまでかさむ。
さらにその先には支え手の世代が細る人口減社会が待つ。綱渡りの社会保障制度をどうやって持続可能に設計し直すか、年金や医療、介護といった高齢者偏重から生じる不公平感をどう調整するか、私たちは重大な岐路にある。中長期的な視点の備えが早急に必要だ。
そうした危機感から安倍晋三首相が衆院選で「国難突破」を訴えたなら、あながち大げさとは言えない。「全世代型社会保障」の公約に総論で反対する有権者は少ない。残念なのは負担や痛みを含む全体像が終始語られなかったことだ。
保育無償化は新たな保育所の需要を呼び待機児童をかえって増やさないか。介護人材確保へ待遇改善を進めるというが、介護支出全体の抑制方針と整合性が取れるのか。
社会保障費は国の予算の3分の1を占め容易に増やせない。首相は消費税増収分の使途変更が「打ち出の小づち」であるかのように言うが、次世代への借金つけ回しにすぎず、代替財源探しを怠るのは無責任だろう。野党も軒並み子育て支援を打ち出したが、財源となると説得力を欠いた。
18年度は病院や介護事業所向けの診療報酬と介護報酬を同時に改定する6年に1度の節目だ。薬価や介護サービスを左右する改定議論は今秋ヤマ場のはずだったが、突然の選挙で約1カ月停滞した。年末の予算編成まで時間の余裕はない。年金財政の検証も急がれる。
首相は選挙後の記者会見で「少子高齢化への対応がアベノミクス最大の挑戦だ」と強調した。社会保障に1強政治はなじまない。党派を超えた国民的な合意形成を望む。
働き方改革も選挙の影響を受けた。与党は当初、秋の国会の最重要課題と位置付けたが、本格論戦は来年に持ち越されそうだ。野党が「残業代ゼロ」と批判する労働基準法改正などを巡り拙速な結論は慎むべきだ。(共同通信生活報道部長 須佐美文孝)