夜噺骨董談義

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忘れ去られた画家 猩々図 富田渓仙筆 その6

2021-07-23 00:01:00 | 掛け軸
本日は富田渓仙の作品の紹介です。本ブログにおいて幾点かの作品を紹介しいてる画家であり、忘れ去られた画家というのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、現在ではそれほどに人気がなくなっている画家なのかもしれないと思っています。



仏画、禅画、南画、さらには西洋の表現主義を取り入れ、デフォルメの効いた自在で奔放な作風を開いた画家ですが、現在はこのような画風の作品はある意味でたくさんあり、かえってこのような画家が近代にいたということを知らない方が多のかもしれません。

共箱の作品です。

  

落款、印章からも真作に間違いのない作品です。



猩々図 富田渓仙筆 
紙本水墨淡彩軸装 軸先鹿骨 共箱二重箱
全体サイズ:横6500*縦2010 画サイズ:横230*縦260

 

本作品で描いているのは「猩々」という画題です。知らない方が多いかもしれませんが、日本画では多くの画家が描いています。

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猩猩(しょうじょう、猩々):古典書物に記された架空の動物。 能の演目である五番目物の曲名「猩猩」が有名である。

真っ赤な能装束で飾った猩々が、酒に浮かれながら舞い謡い、能の印象から転じて大酒家や赤色のものを指すこともある。

仏教の古典書物や中国の古典書物にも登場するが、中国では黄色の毛の生き物や豚と伝わるなど多岐に富み、現代日本で定着している猩々の印象とは相違もあるため、注意が必要である。

下記写真は「和漢三才図会(わかんさんさいずえ 寺島良安により江戸時代中期に編纂)」よります。



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もっとも描いているのは能の場面となりましょう。下記の説明部分では「酒を酌み交わし、舞を舞い踊り、やがて猩々は高風の徳を褒め、泉のように尽きることのない酒壷を与えて帰ってゆくのであった。」という場面か・・・。



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仏教:中国の「礼記」には、「鸚鵡は能く言して飛鳥を離れず、猩々は能く言して禽獣を離れず」とあり、猩々は人の言葉が分ると記しています。「唐国史補」では猩々は酒と屐(はきもの)を好み、それを使って猩々を誘い捕らえることに成功したとされています。

「本草綱目」の明朝の時代になると記載は多くなり「交趾の熱国に住み、毛色は黄色で声は子供のようだが、時に犬が吼えるように振る舞い、人の言葉を理解し、人の顔や足を持ち、酒を好む動物」とされています。

毛色や棲んでいるとされる地域など伝承の違いがあるものの日本の猩々への印象と大まかに共通しているようです。しかし中国の書物に記される猩々は空想的な要素が強調され、一説では豚に似ている、あるいは犬に似ているなど、姿や特徴に幅があり多様な生き物となっているそうです。



能の「猩々」:むかし潯陽江(揚子江)の傍らにある金山に、親孝行者の高風という男が住んでいました。高風は市場で酒を売れば多くの富を得るだろうという、神妙な夢を見てお告げに従い市場で酒を売り始めます。

酒売りは順調に進んだのですが毎日高風の店に買いに来る客の中に、いくら飲んでも顔色が変わらず、酒に酔う様子がない者がいました。不思議に思った高風が名前を尋ねると自分は猩々と言う海中に住む者だと答えて立ち去ります。そこで高風は美しい月夜の晩、川辺で酒を用意し猩々を待っていると水中の波間より猩々が現れます。共に酒を酌み交わし、舞を舞い踊り、やがて猩々は高風の徳を褒め、泉のように尽きることのない酒壷を与えて帰っていきます。

古くは猩々が素性を明かす所までを、前場で演じていました。しかしめでたい内容のことから1日の最後に祝言能として前場を略した半能形式で上演されることが多くなり、現在では観世流などいくつかの流儀において、半能形式の後場だけで一曲となっています。

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冒頭で記述したようにすばやい筆でデフォルメされた作風は富田渓仙の真骨頂です。



箱の誂えもしっかりしています。



表具はなかなか良いものです。



表具からも当時の人気の高さがうかがえます。



当時は最も芸術的な風格に富む画人の一人であり、匠気なき渾然たる画境は世に尊ばれる所であつたと評されました。趣味は広く俳諧、和歌に親しみ、昭和6年頃より浪漫詩を創作したそうですし、また好んで経書を読み、さらには仏典に親しみ、晩年は本朝の古文学に夢中になったようです。

当方では今一度、再評価しても良い画家だと思っていますがいかがでしょうか?




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