日本映画の「舟を編む」を見る。評判はかなり良かったと記憶している。映画は、辞書編集部員が十何年かけて「大渡海」という国語辞書の改訂版を完成するまでのお話で、言葉に対する愛に満ちた人々の奮闘振りが、主人公の恋も絡めながら描かれている。そんな地味な話にも拘らず二時間を越える長編である。唯、そんなに長いとは感じさせない。ということは、それなりによくできているということでもある。例えば、一見軽薄そうなオダギリジョー演じる先輩部員の良い人ぶりに泣かされたり、主人公松田龍平の、後の妻になる宮崎あおい演じる全くリアリティーのない板前さんの楚々とした佇まいに惚れ、いい人ばかりのファンタジーの世界にすんなり入り込めればかなり楽しめるだろう。所謂、心に沁みる良い映画と言えるのかもしれない。
唯映画としてみると、同じく日本映画の「共喰い」と較べると映画の力と言うものは大分弱い。DVやらセックス依存症のどうしようもない親父の血を受け継いだ少年の、自分の中に認められるそのどうしようもない親父の血に悶々とする日常という「舟を編む」とはあまりに対照的などろどろした世界は、ちょっと軽く楽しむというわけにはいかないが、監督の青山真治はそのどろどろをこれでもかとあざとく描わけでもなく、洗練された映像によってうまい具合に見せてくれる。最終的にはその親父の殺人事件にまで発展するという、内容もかなりひどいのだが、見終わってからいやーな感じに囚われることはない。映画として見た場合、評価は「共喰い」>「舟を編む」である。