T君が、突然、蕎麦粉いりますかと言う。
どういうことか聞くと、ガレット用に仕入れた蕎麦粉
が大量にあり、良ければ使ってくださいということで
あるようだ。
と言われても、蕎麦を打つ趣味があるわけでもなく、
どうしようかと思ったが、折角くれると言っているの
だから、一丁蕎麦でも打ってみるか、という気になっ
た。
蕎麦は、地元産の、引退した人が趣味で作っている蕎
麦粉ということであった。
蕎麦を作ってるなら、自分で打てば良いのにと思った
が、T君によるとそこまでは本人はしたくないらしい。
「男の趣味」などと、よく雑誌などで特集されている
蕎麦打ちだが、もっぱら食べる時に文句を言うだけで、
自分で打ちたいとはあまり思ったことがない。
たまに、自分で打ったなどというものを貰う機会があ
るが、大体、素人にしてはまあまあという出来で、決
して良いというレベルのものではない。
要するに、自分でわざわざ打つ必要はないと思ってい
たのだ。
しかし、世の中には、好きが高じて自分で店まで開い
てしまう人もいる。
そしてそういう店は、結構良い店も多い。
やはり、特化して研究するので、それなりのレベルに
達するようだ。
問題は、そういう店は、変に求道的になって窮屈にな
る傾向にあることだ。
更に、総じてちょっと高い。
そんな蕎麦状況のなか、「荒挽きの田舎」くらいの蕎
麦粉を貰ってきた。
早速、ネットで作り方を見る。
普段から「更級」の主人に聞いたりしているのだが、
いざ作るとなるとそれらの正確なことを覚えていない。
結局頼るのはネットだ。
いくつかあるが、それぞれ微妙に違う。
この手のものは、実践して、自分のやり方をみつける
しかないということは、経験上わかっているので、と
りあえず実践だ。
量は少な目。
何故かというと、まず最初は上手く行くはずないので、
出来の悪いものの処理まで考えないといけない。
不味いものを大量に食べるのは辛い。
水回しが重要なことは知っているが、どういう状態が
良いのかということがよく判らない。
適当なところでまとめ、こねて、これも程度が今一
判らないが、ほぼ円錐状の形にした。
見かけだけは、それっぽい。
それをのし、同じ厚さにする。
ここまでは、見かけ上は蕎麦である。
そして、切る。
初めて蕎麦を切るわけだが、なるほどあの蕎麦包丁が
適しているのだ、と実感する。
包丁自体に重さがあったほうが、はるかに切りやすい
のだ。
何とか、切り終わる。
ありがちなきしめん状にはなっていない。
蕎麦も、まだ何とか繋がっている、と思ったが、そん
なことはなかった。
移動していくうちに、何だか短くなってきたぞ。
この時点で、「万が一成功」という期待はなくなった。
こういう蕎麦は、盛では絶対食べられないので、かけ
にする。
できれば、掻き揚げがほしいところだ。
お味のほうは、なんだか田舎の民宿ででてくるような
蕎麦であった。
よく言えば素朴、正確に言うと典型的な出来の悪い蕎
麦であった。