昨日の「イングリッシュパブ」で、「キドニーパイ」と
いうものが英国では名物である、と書いたが、実際に
どれほどポピュラーであるのかは知らない。
それに、「キドニーパイ」がどういう味付けでどうい
う形状なのかも勿論知らない。
ただ、何故食べ物不毛の地英国で、「キドニー」など
という、他ではあまり使わないちょっと珍しい食材を
使った料理があるのかが不思議で、ずっと記憶に留まっ
ていたのだ。
キドニー、英語ではkidney、腎臓のことだが、実は個
人的には内臓系の中で一番好きなものだ。
フランスだとロニョン(Rognon)、ビストロメニュー
としてもポピュラーで、フランスでは特別珍しい料理で
はない。
ソテーとか軽く煮込んだ料理が多いと思うが、パイで
は聞いたことがない。
しかし、何故かイギリスでは「キドニーパイ」。
非常に気にかかる。
ただ、イギリス料理だからという偏見が、どうしても
拭いきれないでいる。
実践するにも、そもそも純イギリス料理を出すところ
など殆どないし。
昨日のイングリッシュパブも、多分イギリスを適度に
取り込んだ日本人用の料理であると思う。
この先、「キドニーパイ」を食べる機会は果たして訪
れるだろうか。
腎臓に限らず内臓系は、鮮度が大事なのだが、その中
でもこの腎臓は注意が必要だ。
というのも、鮮度の悪いのは強烈な臭いを発するから
だ。
それはアンモニア臭。
一度だけそういう腎臓にあったことがある。
昔々、下北沢のフランス料理屋でのことだ。
あの店が、下北沢のフランス料理屋第一号だと思う。
そのくらいフランス料理屋が少なかった時代の話だ。
もう当然ないので店の名前を出すが、確か「マリーアン
トワネット」と言ったと思う、今から思うと気恥ずか
しい名前のレストランだ。
フランス料理屋そのものが少ない時代に、まして腎臓
など出すところは滅多になかった。
場所柄、高級な雰囲気でもないし、使う方としては気
楽に行けて、所謂使いかっての良い店であった。
そんなある日のメニューに「ロニョン」が載っていた
のだ。
冷製だったよう気がするが、その辺はもう定かではな
い。
当然のこと頼んで一口頬張る。
始めは特有の感触、ちょっとほくほくとした感触で、
これこれなどと思っていたが、噛んでくうちに猛烈な
アンモニア臭が口中に広がり始めた。
うっ、これが噂の臭いか、と身に染みて実感すること
となった。
それでよせば良いのに、貧乏性ゆえか全て無理して食
べてしまった。
その後食べた他の料理も、全てアンモニアの香りだった
事は言うまでもない。
その日は、ずっとアンモニア臭を口中に引きずってい
たように思う。
ゲップをしてもアンモニア。
たまらないね。
昔の小学校のトイレを思い出す。
まあ、郷愁の臭いとすればそれも良しか。