■ 自然エネルギー利用には蓄電池が必要になる ■
二酸化炭素起因の温暖化問題で、CO2を排出しない自然エネルギーがにわかに脚光を集めています。
太陽光発電や、風力発電がその筆頭に挙げられています。
ところが、本格的な自然エネルギー発電には越えなければならない大きなハードルがありあます。
それが、蓄電池(バッテリー)の問題です。
太陽エネルギーを電力に変換する太陽電池は、太陽光の強さ(照度)によって、
その発電量が左右されます。
太陽光の強さは、朝・昼・夕という一日の時間の中でも大きく変動します。
又、曇天や雨天など天候によっても大きく左右されます。
そして、大きな雲が流れている日などは、雲の影によっても、めまぐるしく変化します。
めまぐるしく変化する発電量は、「商品としての電気の質」を著しく低下させます。
具体的には、電圧の変動や、高調波の増加という結果として表れます。
■ 蓄電池は発電コストを145円/1kwhにしてしまう■
現状、日本の全発電量に対する太陽光発電の割合は0.1%程度です。
この程度の発電量であれば、送電網はこのめまぐるしく変動する自然エネルギー発電を、
誤差の範囲として吸収する事が出来ます。
従って、現在家庭に設置されている太陽光発電には、
蓄電設備は含まれておらず、余剰な電力は送電網に逆流されています。
足りない電力や、夜間の電力は電力会社から購入します。
現在、この様な逐電設備を持たない家庭用の太陽電池発電の発電コストは、
償却年を20年に設定した場合、47円/1kwh~63円/khwです。
電力会社の家庭用電力の料金が22円/kwh程度です。
これが産業用電力ともなると、7円/kwh程度ですから、実に7倍から9倍のコストになります。
ところが、将来的に自然エネルギー発電の割合が増えると
自然エネルギーによる電源の揺らぎは、無視出来ないものとなります。
例えば、在る地域の10%の電力を、太陽光発電で賄っていたとします。
天気が急変し、厚い雲が急に広がれば、少なくとも5%の電力供給が低下します。
原子力発電所が細かな出力調整が出来ません。
現状でも、消費量の変動に対する、供給電力量の調整は火力発電所が担っています。
電気の消費量が過剰になると、電源のサイクル(Hz)が低下するそうです。
ですから、火力発電所は電源サイクルを一定に保つように、
細かな調整を掛けて運転されています。
5%、10%という電力消費の変動は、ゆっくりと進行します。
しかし、自然ヘネルギーの変動は急峻です。
広いエリアで見れば、平均化するのでしょうが、
狭いエリアでは、5%くらいの変動が絶えず起こる事態も考えられます。
この様な、ローカルの変動は、火力発電所でコントロールし切れません。
よって、自然エネルギーの増加は、電源の質の低下に直結します。
そこで、バッファーとしての蓄電池が必要不可欠になります。
ところが高性能な蓄電池は非常に高価です。
3.5Kwhクラスの家庭用太陽光発電で、
コストと電源への影響を考慮した最適蓄電設備を設置すると、
発電コストは100円/kwh程度跳ね上がってしまいます。
太陽電池を含めると、1kwhあたり145円という、ありえない発電コストになってしまいます。
■ スマートグリットは蓄電設備を家庭から電力網に移しただけ ■
最近良く耳にするスマートグリットという言葉。
電力消費の多い地域に、電力消費の少ない地域の電力を融通したり、
送電線の事故など、停電の際に、送電ルートを変更して早期に停電を復旧するシステムです。
アメリカは送電網のインフラが老朽化して、停電も多く、
スマートグリットへの移行が、国を挙げての急務となっています。
さらに、アメリカでは、この新規に構築するスマートグリットに、
自然エネルギーに対応する為の蓄電設備を組み込もうとしています。
家庭用や自然エネルギーの発電設備で個々に蓄電設備を所有するのでは無く、
送電システム自体に大型の蓄電設備を組み込むという考え方です。
一方、電力会社が継続的に送電インフラの投資してきた日本では、
蓄電設備以外は、既にスマートグリットhの構築は終了していると言っても過言ではありません。
ところが、これに自然エネルギー対応の蓄電設備を追加しようとすると、
5兆円以上のコストが掛かります。
100kW級の原子炉の建設費が、1基3000億円程度ですから、
単純計算で原子炉16基分に相当するコストが蓄電池に掛かる事になります。
蓄電池自体は発電しませんし、製造、廃棄で環境負荷が掛かります。
さらに、蓄電池の寿命は10年程度です・・・。
これをナンセンスと言わずして何と言うのでしょうか?
これは、スマート・グリットでは無くて、ファット・グリットです。
■ 電気自動車やプラグインハイブリットをスマートグリットに組み込む ■
そこで、コストダウンの為の妙案が、
電気自動車やプラグイン・ハイブリット車のバッテリーをスマートグリットに組み込む案です。
これは、各家庭で蓄電池設備を設ける事と同じ考え方で、
昼間、車を使用していない時間に、その蓄電池を流用するという案です。
しかし、プリウスの蓄電容量は1.6Kwh程度です。
家庭用太陽光発電では5Kwh程度の蓄電容量を必要としますが、
一台のプリウスでは足りません。
太陽光発電の家庭1軒の蓄電容量を、3台のプリウスで確保する事になります。
両隣のお宅もプリウスならば、問題無さそうです。
1台のプリウスのバッテリー容量を3倍にして、
価格で90万円、重量も90kgアップするよりも現実的です。
一方、電気自動車の場合は、高容量のリチウムイオンバッテリーを搭載していますので、
多分1台で、所定の蓄電容量を確保出来そうですが、
現状、車用リチウムイオンバッテリーの価格は250万円です。
この様に、スマート・グリットの中に電気自動車はプラグインハイブリット車を組み込む案は
発電用(電源環境の安定化用)に専用のバッテリーを設置するよりも、余程合理的です。
但し、日曜日の昼間など、車の稼働率の高い時間帯で
蓄電容量が減少するという問題が発生します。
■ バッテリーの価格は下がらない ■
本格的自然エネルギーの発電が普及するには、
蓄電池のコストが現状の1/10程度になる事が求められています。
しかし、化学的蓄電池の蓄電容量は、物質の使用量に比例しています。
飛躍的な蓄電容量も高密度化が進まない限り、蓄電池のコストは下がりません。
むしろ、電気自動車やハイブリット車が本格普及すれば、
原材料の一部であるレアメタルは高騰します。
実は蓄電池の充電密度はあまり向上していません。
リチウムイオン蓄電池も20年前からある技術です。
これらの事を考えると、バッテリーの価格は劇的に安くなる事は無く、
自然エネルギーの本格普及は、蓄電池のコストを押し上げる可能性もあります。
■ バッテリーの環境負荷を無視する現状の太陽光発電のLCA ■
良く、自然エネルギーは環境負荷が低いと言われます。
しかし、太陽光発電のLCAは、蓄電池のLCAを抜いて計算されています。
実際の自然エネルギーは蓄電池無くしては成り立たない技術です。
現在の技術レベルでは、自然エネルギーの本格普及は環境負荷を一時的に高めこそすれ、
下げる事は出来ないでしょう。
それ以前に、発電コストの上昇分を誰が負担するのでしょうか・・・・。
環境問題は、理想論で語られる事が多すぎます。
解決しなければならない課題に目をつぶり、
~なら ~とか という希望的前提の下に、
大した議論もされずに「良いこと」にされてしまう事が多すぎます。
この様な、思考停止こそが、
環境ファシズムが勃興する温床となるのでは無いでしょうか。